第224回 遺跡調査の成果を発表するということ
1、ミヤギの考古学総まとめ
平成30年度宮城県考古学会 遺跡成果発表会が12月8日に東北歴史博物館で開かれました。
今年度は7つの遺跡の発掘調査成果の口頭発表が行われ、資料発表として11件が報告されました。
実はこの学会、昨年度まで6年間役員を務め、ようやく任期満了となったので、久しぶりに一参加者として気楽に見に行くことができました。
うちの町の成果発表も二度ほどしたことがありましたね。
参加記録として簡単に紹介したいと思います。
2、六つの遺跡から
①仙台市鍛治屋敷A遺跡
仙台市南西部の富沢駅周辺の再開発に伴って発掘された一連の遺跡の一つで、平成30年1月から7月まで行われた第4次・第5次調査の成果が報告されました。
第4次調査では9世紀後半と考えられる竪穴建物跡から緑釉陶器や円面硯が出土しています。どちらも一般庶民の住居から出てくるモノではないのが注目されます。
第5次調査では溝跡から擂鉢や漆器碗などが出土し、この遺跡で初めて中世の遺物が出土したことが目玉ですね。
②栗原市入の沢遺跡
国道建設工事で発見され古墳時代前期のヤマト政権とエミシの地との境界を示す遺跡として注目を集めたこの遺跡(宮城県発行のPDF)。平成29年に国の史跡に指定されましたが、国道工事予定地から外れていた部分の調査を三カ年で行う計画。
今年度の調査では大溝で囲まれた集落の範囲を特定することができたとのことでした。
③仙台市愛宕山横穴墓群
仙台市中心部にほど近い向山地区にはこの遺跡を含め山の裾部に断続的に古墳時代の終わり頃の横穴墓が数多く広がっています。
今回の調査では近現代の開発で一部壊されているものの3基の横穴墓の存在が新たに確認されたとのことでした。
④多賀城市多賀城跡
奈良時代・平安時代の陸奥国の政治的・軍事的拠点だった多賀城。
宮城県では多賀城跡調査研究所という組織で継続的に調査を行なっています。
今年度では多賀城創建時代の区画の一部を見つける目的で調査したものの、発見出来ず、
一番の成果は緑釉陶器の大きな碗を発見したとのこと。
これは全国的にも珍しい優品で、平安京の嵯峨天皇が譲位した後に御所とした冷泉院でも同様のものが見つかっているそうです。
これから各地で展示されることになりそうですね。
⑤多賀城市市川橋遺跡
そして多賀城下の都市部にあたる遺跡。こちらは宅地開発に伴って市が発掘調査。
古代の都市の様子がわかる成果がたくさん見出されていますが、その中でも一つだけ紹介すると
丸太組みの井戸跡。
井戸枠は板材で作られていることが多いので、丸太組みは珍しいです。
さらに井戸の中の土には木炭が堆積しており、水を濾過する意図で入れられていたのでしょう。
このような具体的な生活の様子がわかるのが発掘調査の醍醐味ですね。
⑥仙台市仙台城跡
藩祖伊達政宗が築いたこのお城も継続して発掘調査が行われており、毎年新たな成果が上がっています。
今年は造酒屋敷という政宗がわざわざ関西から招いて屋敷を与え酒造りをさせたという場所と、三の丸という今は仙台市の博物館がある場所の土塁を調査したとのこと。
絵図面がたくさん残っているこの遺跡ですが、
屋敷地中の建物はどう並んでいたのか、土塁の上には塀があったのかなかったのか、
調査で明らかになることはまだまだあるようです。
3、次の一年を見据えて
岩沼市の原遺跡は今回の発表会の中でも1番の成果で、書くと長くなりそうなので、別稿にします。
今回の発表会では、別室で遺物の展示も行なっていました。調査担当者から直接話をきくこともできるということもあってこちらも活況を呈していました。
全体的な感想としては、復興事業も峠を越え、大規模な調査が少なくなったことが感じられる会でした。
復興調査が始まる前が遠い昔すぎて思い出せませんが、地道な調査を積み重ねていくことで新たな光が見えてくる、そんな会であってほしいものです。
ですが、方向性については改善の余地があるように思います。
役員・関係者がこんなに頑張って運営している会は専門家だけのものであってはもったいないと思いませんか。
もっと宣伝して、敷居を下げて、わかりやすくしてこそ活動を理解してくれる人が増えるのではないでしょうか。
学会の会員も減少しており、先行きは不透明です。
どこの県でも似たような学会があり、同じ悩みを抱えていると思います。
万能の特効薬はありませんが、もう少しできることがあるような気がしてしまいます。
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