第718回 時代の先取りと前時代の精算
1、国会会議録検索システム
を使って「文化財」という言葉が国会でどう語られてきたのかを
少しずつみていくこのコーナー。
ちなみに前回はこちら。
2、第7回国会 参議院 文部委員会 第4号 昭和25年2月15日
今回は関東地方を視察した結果が簡潔に報告されています。
まずは文化財保護法制定に向けた国の動きに対応して
地方でも文化財保護の機運が高まってきているとのこと。
例えば千葉県では昭和24年に『国宝及び重要美術総覧』を
25年には『天然記念物総覧』を作成予定とのこと。
また栃木県では24年の12月25日に日光で震度5強を記録する今市地震が発生したことを受け、社寺が大きな被害を受けていることが報告されています。
石垣の崩れや地盤の緩みが発生しているが、これらは一見目立つものではないが、そのままにすると、将来の大きな被害につながるという認識がされているのが興味深いです。
一方千葉県で郷土資料館の整備に注力されていることが挙げられ、伊能忠敬旧宅が事例に出されています。
3、第7回国会 参議院 決算委員会 第2号 昭和25年2月16日
文部委員会ではなく、決算委員会として
愛知県、三重県、奈良県及び京都府における国有財産の処理状況実地調査に派遣された議員の報告がされています。
この中に文化財とも関わる内容がありましたので紹介しますと、
京都や奈良の寺院の中に、
天皇家と関わりがあったり、軍隊が駐屯していたりという様々な理由で
国有地となっていたものを、政教分離の観点から整理しようという視点でなされたものでした。
いくつか具体例を挙げると
京都の賀茂別雷神社では
なんと境内地内にゴルフ場が建設されているという問題が議論されています。
当初は進駐軍向けのゴルフ場を建設する計画で
それが中止となった際には京都府副知事が委員長となっている実行委員会が事業を受け継ぎ、やがで「観光日本株式会社」に引き継がれたとのこと。
当初国有地だったにもかかわらず、ゴルフ場整備に伴って伐採された立木は神社に収得させていたことが問題視されます。
さらに国の方針では宗教法人としての本来の用途に供するのであれば
神社側に無償譲渡することも検討されるが、ゴルフ場はそうとはいえないため、無償譲渡範囲から除外し、時価相当額をもって売り払われるべき、との見解が示されました。
続いても京都の東福寺
山門のそばの丘陵地が軍隊が駐屯していた時に
防空退避場所として樹木の伐採がなされるだけでなく、菜園になっていたことが明らかにされます。
軍隊直営で使用している部分と付近の住民が耕作している部分とがあり、
終戦後に曖昧なまま近隣住民が工作を続けてきたが、
本来は寺院がその尊厳保持のために管理すべきもの、という見解が示されています。
一部の運動者は耕地として払下げを目論み、京都府の農地委員会もこれを認める方向性にありました。
しかし、財務省ではあくまでも家庭菜園の域をでないものを払下げる必要があるのか、という疑問が呈されています。
同じような問題は泉湧寺でも起きており、
他の京都の寺院でも同様の事案が発生しているがどれも円満に解決しているのに、なぜここだけできないのか、と苦言を述べています。
奈良においては興福寺・東大寺・春日大社の境内地がすでに公共の公園のようになっており、官民のけじめをどうつけるかが話題になっています。
さらには三重県の伊勢神宮、愛知県の熱田神宮についても触れられていますが、
全国どこでも似通った問題が発生していたことがわかります。
4、地方自治体の矜恃
いかがだったでしょうか。
今回も視察報告のネタが続きました。
どうもこの報告を見ても、やっぱり国会議員さん仕事してるな、と思えてしまいます。
細かい点では疑問点がありつつも
問題の本質がどこにあるのかについては外していないように思えます。
さて、もうお決まりの文句になりましたが、
まだ文化財保護法は成立していません。
ただ、2項のところでも述べましたが、国会での議論が白熱するなか、世間の注目も集まり、地方自治体でも対応するところが出てきているようなのは喜ばしいことですね。
国の判断に右往左往させられている現代の自治体からすると、本法成立に先行して環境整備を行う先進的な姿が眩しく感じてしまいます。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。