第1460回 社会現象を冷静に眺めるために
1、読書記録343
本日はこちら。
飯島渉2024『感染症の歴史学』岩波新書
2、記録し、歴史に位置付ける
新型コロナ感染症に翻弄された月日を地域としてどう記録していくのか。
常に考えていましたが、まずは我が国全体の状況を簡易にまとめた書物はないか、思っていたところにちょうどいい新書がありました。
本書は第1章を新型コロナのパンデミックについての記録とし、
2章以降でこれまでの感染症パンデミックを取り上げることで
新型コロナは世界(歴史)をほんとうに変えたのか、を考えてみる、
という手法を取ります。
公式記録に基づき、時系列順に起こったこと、政府の対応などをまとめていくとともに、
ロックダウン下で書かれた『武漢日記』やダイヤモンドプリンセス号の乗客が書いた回顧録など
いわゆる一次資料、当事者の言葉を丁寧に拾っていきます。
一方で、自治体の中で先進的な取り組みとして、
すでにこの間の対応記録をまとめ、公表した横須賀市を紹介しています。
全国の自治体がこれを行うことができたら…と思ってしまいますね。
一方で感染症下で起こった様々な問題、特に公衆衛生と人権については
示唆に富む事例が報告されています。
例えば某公共施設では、ワクチン接種を受けていない職員を「拒否者」として周知するような体制をとっていたり、
様々な救済措置からこぼれ落ちる人々がいたり。
著者は
と断じています。
これに関しては都会から見える「地域社会」と
田舎にどっぷり浸かってみる「地域社会」の違いもあるのかな、と
個人的には違和感も感じます。
雨宮処凛の
「地域社会」なんて、あるかどうかもわからないものに丸投げするな
という言葉が引用されていますが
私の周りには「地域社会」は確実にあるし、
問題なのは国は地域の現場に何が必要か見えてないから、振り回される、
と言うことだと思うんですけどね。
国際社会の連携もうまくいかなかった、という点は、全く首肯できます。
ワクチン開発に成功した国とそうでない国で格差が生まれるのはわかりやすい構図。
公衆衛生という国が大きな権限を持つ方が効率的な分野の問題であり
先ほど地域社会の枠組みが重要になってくる、というのは旧時代的なのに
ウィルスはボーダレスの時代の流れをうまく活用して飛び交っていく。
この方向性の噛み合わなさが現代の社会の特徴とも言えるのではないでしょうか。
終章で語られるように
我々は自然災害、時には自ら巻き起こす戦争と同様、危機に瀕しても、「社会」の方を変えて生き残ってきたのです。
そして何度も乗り越えられたのは、一つに過去に学んできたから、でもあります。
著者は
と語ります。
歴史化していかないと、すぐ人は忘れてしまいます。
だからこそ歴史が残されてきたのです。
3、正しく怖れることができるか
いかがだったでしょうか。
新型コロナ感染症が社会に制約を与えていた時期を越えたかと思うと
地震災害が起こる我が国。
次々襲ってくるからこそ忘れてしまうのかも知れませんが
忘れないために「記録する」ことができるのが人間の最大の強みです。
そして「記録」をより正しく読み解けるようになることは
望むべき未来に向かっていく上で必要なこと。
歴史学が果たすべき役割は依然として大きい、と言えそうです。
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