第36回発掘は終わらない
1、導入
日本全国で毎日発掘調査が続けられたら
いつか掘り尽くしてしまうのではないか。
そんな風に思いませんか。
平成27年一年間で行われた発掘調査の件数は62,310件(文化庁の統計)。
ですが全くそんなことはありません。
日本の遺跡数は実に46万5021か所(奈良文化財研究所のブログより)。
うちの町にも100件以上の遺跡がありますが、発掘調査のメスが入っているのは1割程度です。
基本的には開発が決まって緊急調査を行うことがほとんどなので
開発が及ばない遺跡はずっと手付かずで残ることも多いのです。
2、発掘できない遺跡
陵墓参考地という枠組みもあります。
歴代天皇や近親者の古墳とされているところは宮内庁の管轄下にあり、ほとんど発掘されないまま立ち入りも許可されない状況です。
わずかに選ばれた学者が立ち入り調査を許されるのみで
いわば日本国家初期の歴史がまだまだ眠ったままなのです。
しかも明治維新の頃に慌てて
この古墳は◯◯天皇のもの
と決めたので現代の考古学の知見では明らかに間違っているということも指摘されています。
それどころか陵墓指定地になっていないので発掘することができた古墳で
継体天皇の墓だとほぼ確定した今城塚古墳の例もあります。
3、考古学と文献史学の違い
発掘のメスが入っていない遺跡が膨大にある一方で、発掘調査で新たな資料が追加されることは継続して続きますので
次々に学説が塗り替えられるような発見もあります。
むしろ全国の調査成果を網羅することは個人では不可能なくらいの規模になってきており
考古学者の専門がタコツボ化(極端に狭くなる)する傾向にあります。
逆に古文書から歴史を研究する文献史学者は、専門とする時代が古くなるほど新たな資料が見つかる可能性は非常に低くなります。
偉大な先輩方が見た資料と同じものを研究して、新たな学説を見出す必要があるのです。
違った苦労がある、と言えばそれまでですが
向き不向きもあるのではないでしょうか。
考古学は膨大な資料群を俯瞰する能力が必要な場面が多いですが
文献史学は一つの文字をどう解釈するかで勝負するような厳しい社会。
若い人、大学で歴史を研究しようという人にもこの違いを是非知ってもらいたいものです。