第1381回 縄文バイオアーケオロジー最前線
1、縄文を語る!
講座「墓からみた縄文時代の社会」
東京都立大学教授 山田康弘
於 東松島市野蒜市民センター
http://www.satohama-jomon.jp/r5_jomonkouza.pdf
に行ってまいりましたのでその感想を少し記録しておきたいと思います。
2、バイオアーケオロジー
山田氏の講演は初めて拝聴しましたが、
二時間の講演の中で途中でストレッチも入れるような手慣れた進行で
会場はとてもなごやかな雰囲気でした。
このストレッチはこうした方がいい、骨を研究している学者がいうのだから間違いない、とユーモアも交えていたのが印象的でしたね。
縄文人の特徴の説明の中で、かむ力についての言及があり、頭の骨に違いが出てくるとのこと。
こめかみは「米をかむ」に由来する。硬いものをかむときに動く部分。現代人はかむ力が弱くなっており、鎌倉時代頃の人骨と共通性があるというのも興味深いです。
鎌倉時代の人は歯が弱かったのかな?
縄文人と現代人は骨の作りに若干の違いはあるものの、基本的には同じホモサピエンスなので、いわゆる「原始人」的なイメージでとらえるのは間違い、と明確にされていました。
これだけは覚えて帰ってね、というやつ。
縄文人は抜歯という成人になるための通過儀礼があったんですが、40代の男性でもその特徴が見られない骨も見つかっているとのこと。
大人になれなかった縄文人がいたってこと…?
従来の伝統的な考古学と人骨を理化学的に分析した情報を組み合わせて行う自らの研究分野をバイオアーケオロジーと呼称していました。
何を明らかにすることができるか、という具体例として
同じお墓、もしくは近接して埋葬される人骨同士の関係を明らかにする、というものが紹介されました。
例えば頭の骨にのこる縫合線。
子どもの頃は頭蓋骨が分かれていたのが、成長するにつれてくっつく、というやつですね。
このパターンが人によって違っていて、「前頭縫合」であれば100分の1の出現率しかない、という統計データがあるようです。
例えば近接して見つかった人骨3体にすべてこの特徴がみられるならば、偶然同じ特徴の他人だと考えるとすると100×100×100分の一の確率となるので、まずありえないだろう、と。
つまりは遺伝的な関係、親子だと考えられる、という風になるわけですね。
DNAで親子関係を調べる、ということも以前から行われてきたのですが、歯の根元よりも耳の後ろの方にある骨の方がDNAを検出できる可能性が高いということが最近分かって来たとのことで、以前よりも気軽に検査ができるようになったとのこと。
一資料にたいして3桁万円かかかるのに成功率が3割ではできなかったが、今は7割くらいになってきたそう。
実施例としては大人が子供を抱きかかえているような状態で埋葬されていると、つい母親と子ども、と考えがちですが、実際にDNAを調べたら否定された、というデータもあるようです。
あとは最近報道でも見られるようになってきた「コラーゲン」に含まれる炭素と窒素をしらべることで食生活を復元できる、という話題。
例えば長野県山間部の遺跡ではどんぐりやクリ、鹿猪が主体で、北海道では魚やオットセイ等の海獣類の肉が主体というような感じです。
これを更に応用すると、一つの遺跡から複数の人骨を分析することができた場合、中心的な分布域の範囲から外れた所に位置する人がいると、それは外来者ではないかということがわかるのです。
他の人達が肉や魚を食べていたのに、一人だけ植物食に偏っているデータが抽出されたものは「肉食」をタブーとしたシャーマンのような存在さえも示唆されるということ。
次々と展開される話題に、あっという間の二時間でした。
3、おわりに
実際にどの遺跡の資料なのか、データを示す図表をご覧になりたい方は山田先生のご著書をご覧いただければと思います。
『縄文時代の歴史』講談社学術新書
講演後に名刺を渡してご挨拶だけでも、と思って並んでいると、
話題の書『土偶を読むを読む』にサインをお願いししている方もいたのは驚きでした。
ぜひうちの町でもご講演をとお願いすると「呼んでいただければ」と返されましたが、あまり乗り気ではない印象。やっぱり忙しいのでしょうかね。
関係者の方に聞くと、県外からも多くの参加者があったとのこと。
さすがの知名度ですね。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。