第743回 国会議員が視察にやってきた その2
1、第8回国会 衆議院 文部委員会 第10号 昭和25年11月13日
を使って「文化財」という言葉が国会でどう語られてきたのかを
戦後の第一回国会から少しずつみてきたこのコーナー。
ちなみに前回はこちらですが、
国会議員の視察報告、という点ではこちらも関係があります。
2、東海・北陸編
今回は若林義孝議員が視察報告をしています。
この人物は三重県上野市出身ですが、戦前の官選首長として福井県敦賀市長を務め、戦後は岡山県選出の衆議院議員となり、のちに大阪府箕面市長を務めています。
まず訪れた静岡県では登呂遺跡の発掘調査状況を視察したようで、この年で国庫補助が打ち切られる予定になっているが、もう少し継続が必要だ、との陳情を受けてきたようです。
ちなみに調査はこの年で終了しますが、翌年に復元住居が整備され、昭和27年には国の特別史跡に指定されることになります。
続いて
岐阜県におきましては、文化財保護については遺憾な点が多々あるのでありまして、文化財保護委員会の一段の御考慮を煩わす点が多々あつたように思います。
とだけ触れられていますが、具体的なことはこれだけではわかりません。
福井県では柴田氏庭園
と丸岡城を視察してきたご様子。
丸岡城については近年調査が進み、これまで現存最古の天守とされてきたことに疑問が呈されて話題になりました。
古民家の類も都市部から離れているから偶然残されてきたが、
農地改革の影響で地主が資産を失って維持できなくなったものもあり、
国の保護策が急務である、との指摘がなされています。
3、近畿・中国編
近畿地方への視察報告をしているのは
長野長廣議員。戦前は教員として各地を回り、戦後は長く文部畑の議員として政務次官まで務めます。
視察内容としてはまず、京都の寺院の防火対策として
消火設備の実演を見てきたようです。
またシロアリ被害を受けた文化財を目の当たりにして
防蟻技術の調査研究に国を挙げて取り組むべきだと提言しています。
岡山県の岡山城についても、これまで旧藩主の池田家個人所有となっており
維持が困難で、分割で売却する必要さえ生じている、と憂慮されています。
4、九州編
報告者は長崎県選出の議員である岡延右エ門。
こちらでは文化財保護法が制定されるまで、
新たに文化財指定を控えていたものがあったようで、運営上支障をきたしている、と報告しています。
その一例として挙げられているのが大浦天主堂。
原爆によって被害を受け、昭和22年から修復が開始されていたのです。
工事が中断している間の覆屋は見た目も悪く、
台風被害の多い土地柄もあって大変憂慮されているようです。
現地では工事の進捗が遅いことを「文部省式」といって揶揄する向きさえあるとのこと。
流石は地元の話題。実感が込められた報告です。
5、事務局答弁
これらの報告に対し、文化財保護委員会事務局側の説明として、
総務部と保存部にそれぞれ三課を設ける組織案は出来上がったものの、
実際の配置転換は予算成立後ということで、少ない人員の下で業務を行なっているためになかなか進まない、との言い訳がなされています。
ジエーン台風及びキジア台風の被害についてもなんとか大蔵省と折衝して
補正予算を編成して災害復旧費を計上することができた(これから審議するということ)、と説明します。
防火設備に関しても、全国の国宝重要文化財の状況調査を実施中で、それぞれ年度計画を策定して整備を図っていくことを目指しているとのこと。
まるで昨年のノートルダムの一件を受けて急に全国に状況調査をした時のようですね。
そして、最も大事なことは国民の意識である、と認識し、講演会や展覧会を企画しているとのこと。
そして専門審議委員の人選についてや
焼失した金閣が再建されているが、再建後は国宝にならなくても集客できるのか、
日本刀所持の届出制について
など重要な案件について質疑が交わされていますが、長くなってしまうので
今回はこの辺で終わりにします。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。