第221回 文化財の未来はどっちだ
1、読書記録17
職場に届く『月刊文化財』
平成30年12月号は
文化庁50周年と今後の展望
がテーマでした。
いつもなら新指定の文化財を類型(建造物とか美術工芸とか)で紹介する特集が組まれていますが
この号は文化財保護法改正に対応する文化庁の新体制や近年取り組んでいる新制度を紹介するという趣旨が誌面の大半を占めるので
正直退屈な話が多い号でした。
2、ここまでの10年
そんな中でも皆さんに紹介できるようにと考えてピックアップしたのは
「文化財行政の10年」
という特集。
これまた文化財類型ごとにこの十年の文化庁の取り組みを紹介しています。結局は縦割りで専門が異なる執筆者の原稿をまとめているからこの形になるのでしょう。
《建造物》
大きくは「登録」という制度が軌道に乗ってきた事が成果としてあげられています。
国宝や重要文化財に「指定」されると、文化財としての価値は揺るぎないものとして評価されることになりますが、そのためには厳格な要件がありますし、指定後の現状を変えることには大きな制限がかかります。
なので「指定」よりも緩やかな「登録」という制度で文化財を守っていこうという取り組み。
わかりやすく言えば、新しいモノ、極端に言えば戦後の建築でも東京タワーのように象徴としての価値があるモノが選ばれています。
それからこれまでは傷んだ文化財の「修理」に補助金を投入していましたが、
公開して見せるために綺麗にする「美装化事業」や
修理に使う漆や茅、檜皮などの原料の生産地を保護する「ふるさと文化財の森システム推進事業」
文化財をNPOに管理を任せていくためのモデル事業などにも力をいれつつあります。
《美術工芸品》
平成25年にNHKの報道で明らかになった、指定文化財の所在不明問題をご記憶でしょうか。
文化庁は慌てて報道で指摘された文化財の調査に乗り出すとともに、県に指定文化財全て(10,524件)の所在確認調査を県に指示します。
そして県は締め切りを少し短くして市町村に指示。
末端の我々が現地を確認に行く。というお決まりの構図がありました。幸いわが町は被害がりませんでしたが。
《埋蔵文化財》
東日本大震災直後は
発掘調査=復興の壁
という論調がメディアにあったが、文化庁が積極的に予算や人材面の配慮をしたため、スムーズに調査が進むとともに、新たな発見が相次ぎ被災地に明るい話題を届けられたこと。
次世代の人材育成のために学生向け説明会をはじめて開催。
これまでは文化財担当者や学芸員への就職は狭き門でしたが、少子化とともに担い手が不足する未来が見えてきたという危機感があったのでしょう。
3、これからの10年
以上、私が特に関心のある3類型の記事を紹介してコメントを入れてみましたがいかがだったでしょうか。
他の類型の記事も見てみたい!という方は是非お手にとってみてください。
出版元から購入することができます。
定期購読をしている機関以外はほとんど購入されていないのではないかと思いますので、図書館でも大きいところにしかないかも知れません。
文化財を取り巻く現状は大きく変容しています。
本書でも長官以下、調査官さんたちは現在の組織改編と法改正は後々メルクマールになるだろうと口を揃えて言います。
10年後にまだこの雑誌が続いていれば、この時代がどう評価されるのでしょうか。
誤った改革だったと後悔するのか、時代を先取りして飛躍の土台となったと自賛するのか。
皆さんはどう思われますか?
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