第92回文化財の新たな未来
1、文化財にはお金がかかる
当たり前のことですが、
文化財を調査するにも
維持管理するにも
修復するにも
展示公開するにも
全てそれなりのお金がかかります。
今の日本では私立博物館所蔵のモノだったり、個人の所有だったりするものを除けば
自治体が費用を負担することになります。つまり原資は皆様から集めた税金であります。
国では国交省や厚労省に比べて、文部科学省も予算を潤沢に持っているわけではありませんし、さらにその付属機関である文化庁ではなおさらです。
地方公共団体であってもそれは同じで、どうしても教育部門、さらにその傍流である文化財の予算は寂しい限りです。
国から補助金を獲得するためには、様々な条件(往々にして不条理)をクリアしなくてはいけませんし、競合する自治体と枠の奪い合いになります。
そんなことなら国を頼らないで、やりたいことをできないのか、と最近悩んでいます。
2、新たな資金調達を文化財にも
そこで今流行しているのがクラウドファンディングです。
事業プランを広く公開して、賛同者から資金を集める調達方法。リターンも自由に設定して、支援したくなる工夫を凝らします。
歴史文化のファンは地元ばかりでなく、遠隔地にこそいるでしょうから、うまく情報を届けられれ、魅力あるプランを提案できれば、文化財とこの調達形式は相性いいのではないかと思います。
ですが、身近にはあまり成功例を聞くことはありませんでした。
お役所仕事ではうまくいかない、そんな理由でしょうか。
刀剣の復元プロジェクト
というのが比較的身近でありましたが、それも課題が多かったように見えました。
ですが最近
学術研究に特化したacademistというプラットフォームを見かけました。
魅力的な提案たくさんがありますが、幅広いテーマが紹介されているので、個人の興味関心とマッチするものがなかなか見つけられませんでした。
すると、考古学者の企画した
クラウドファンディングがありました。
アフリカの地で「伊万里焼」の輸出ルートを解明する!
我が国が誇る江戸時代の陶磁器の中でも代表的な伊万里焼きは貿易商品として、遠くアフリカの地までたどり着いていた!
それを調査する費用を募集していたのです。
陶磁器を専門としてきた私としては迷うことなく支援することにしました。
もっとも、わずかな額ですが。
すると先日無事目標額を獲得した、との連絡がありました。
調査リポートをいただけるというリターンですが、なにより趣旨に賛同したプロジェクトが実際に動き出すことに喜びを感じてしまいます。
そう、これなんです。
共感できるストーリーと実現の信頼性と、顧客へと届くためのツールがあればきっと実現できるんですよ。
3、人々の共感を生むためには
少し前、ふるさと納税をわが町でも導入する、という話になった時、雑談レベルで同僚と話したことがありました。
文化財で返礼品を考える場合
・指定文化財写真集
・クリアファイルや一筆箋などよく博物館にあるようなグッズ
・特別講演会や見学会の招待券
という案が出たと記憶しています。
もちろん、文化財担当にふるさと納税から相談があることもなく、無難に地域の特産品で決まったようです。
今考えてみると
ストーリーというか、ふるさと納税でやる必然性もなく、
顧客層やどうやってそこに届けるのかも考えられていないフワフワしたものでした。
今、クラウドファンディングの成功例を目の当たりにして、改めてどうすれば文化財を修復したり、公開展示するための費用を賄えるほどの支援を受けられるか考えてみたいと思います。