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七つの海の物語の話

前回、リンかけ2の話をしますと書いたのですが、それはさておき皆さん、七つの海をモチーフにした人気漫画・アニメと言えば、『聖闘士星矢』ポセイドン編以外に何を思い浮かべますか。
そうですね『マーメイドメロディーぴちぴちピッチ』ですね。
アニメ放送期間は2003~2004年と、まさにリンかけ2がスーパージャンプ誌上で激アツだった時期でありますから、まあこれは半分リンかけ2の話をしているも同然ということで良いでしょう。

監督のふじもとよしたか氏は、『アイドル伝説えり子』『アイドル天使ようこそようこ』のアミノテツロー監督のもとで『マクロス7』の助監督・メイン演出を務めた人であります。「宇宙じゅうの生命エネルギーを吸いつくしてしまう吸血鬼を、カリスマロックシンガーが歌の力でなんとかする」アニメを手がけた演出家が、「七つの海の王国と地上のいざこざとか、古代人類の復活をもくろむ勢力とかを人魚姫が歌の力で何とかする」アニメを作る――これはもう宿命であったと申し上げてよいでしょう。
能天気ラブコメの一言では片づけられないカルトな空気を持った物語や、声優さんたちの個性豊かな歌唱による名曲の数々は、当時のお子様たちのみならず、いい歳して女児向けアニメを見るタイプの好事家たちの熱い注目を浴び、放送終了後も悪役声優陣を中心にしたガールズバンドCri☆Sisが結成されたり、周年イベントが開かれたり、近年も続編漫画がスタートしたりと、根強い人気を誇っています。

このぴちぴちピッチ、いわゆる「歌アニメ」としての最大の特徴はといえば、音楽が攻撃手段であり、聴いた相手が悶絶してダメージを負う、という点です。人魚姫というと歌声が綺麗というイメージですが、ぴちぴちピッチの主人公たちの歌は聴いた悪役を苦しめます。この描写、たとえばマクロスシリーズで歌という文化に初めて接触したゼントラーディやプロトデビルンが困惑したりゾクゾクしたりするのとは違いまして、完全にジャイアンリサイタル的な「不快音波」という扱い。ワンコーラス苦しんでから逃走する敵に対して「アンコールはいかが?」と追い打ちをかける鬼畜の所業が、物語本編のすっとぼけた味わいと相まって、毎週土曜日の朝に心地よい脱力感を与えてくれたものです。ちなみに各シリーズの最終盤、最後の敵の怨念をなんとか浄化しなくちゃという局面になって、ようやく「癒やし」としての歌の力が発揮されたりもするので、そこはご安心ください。

さて、音楽が凶器として扱われる現代ファンタジーバトル物という括りでいえば、我らが『聖闘士星矢』は完全に同カテゴリであると言えます。
デッドエンドシンフォニー、クライマックス、バランスオブカース、ストリンガーレクイエム、ノクターン、フィーネ。デストリップセレナーデは眠らせるだけとはいえ、作中での用途は攻撃補助ですよね。
『海皇再起』でひとつやってみたかったこととして、ソレントの笛をいわゆる癒やし系に使えないか、それこそ瞬が言っていたように本当は良い人なんだからやろうと思ったら出来るんでしょ? というのがありました。
それをやったのがヘブンリーコンチェルトという技でして、解釈としては、真鱗衣の力で身に付いた新しい技というわけではなく、本人の意識の変化と特殊な敵との遭遇によってようやく出番が訪れた、という感じになります。

音楽というのはたしかに人の心に愛や平和の尊さを訴える力を持っているものですが、現実世界におけるその出番はあくまで戦前や銃後の社会にあるのであって、目の前に敵がいる戦場で兵士が「歌おう」ということには、流石になかなかならない。それをやってしまい、実際に敵に武器を捨てさせてしまうところに「歌アニメ」のファンタジーとしての偉大さはあるのであって、「そうはならんやろ」と「でもこうなったらどんなにいいか」の狭間で、我々は皆涙するわけですね。

ぴちぴちピッチにおいては、歌が毎週のごとく音波兵器として扱われていたからこそ、肝心な局面では真価を発揮して敵の心まで救う、というところに巨大なカタルシスがありました。これは徹頭徹尾「戦争なんてくだらねえぜ! 俺の歌を聴け!」とやっていた熱気バサラからは得られそうで得られない栄養素であり、作品としての大きな個性であったと感じるところです。

チャンピオンREDの表紙に使われたこのイラスト、本当なら各人のカラーを対応するマーメイドプリンセスと合わせたかったのですが、↓

北太平洋 バイアン るちあ(ピンク)
南太平洋 イオ ココ(イエロー)
北大西洋 カノン リナ(グリーン)
南大西洋 ソレント 波音(水色)
インド洋 クリシュナ 沙羅・星羅(オレンジ)
南極海 カーサ かれん(パープル)
北極海 アイザック ノエル (藍色)

色相環とキャラ配置の関係でどうしても全員とはいきませんでした。これは作者の不徳の致すところとしか言いようがなく、頑張って色を合わせてくれたアイザック、カーサ、クリシュナの三人には足を向けて寝られません。

というわけで、車田正美熱血画道50周年である今年は奇しくも『ぴちぴちピッチ』20周年でもあるのだ、というお話でした。
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