アイカツ!コラボで蓮ノ空を始めた人もいるよ、というご報告
2024年2月18日、それは「退路」が断たれた日だった。『蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』が、『アイカツ!』とコラボすることが発表された。これ以上可処分時間を奪われることから逃げ続けてきた私も、ついに観念して『Link! Like! ラブライブ!』をインストールした。で、今、毎日蓮のことを考えている。
『蓮ノ空』のことは以前から勧められていた関係で、どういう試みであるかはわかっていたつもりなのだけれど、百聞は一見に如かず、実際に触れてみてわかったのは、これを追うのはかなり覚悟がいるコンテンツだということ。具体的には、人生の中で最も重要なリソースであるところの「時間」を費やす覚悟、である。
アプリをインストールしてメニューを開くと、「活動記録」と「スクールアイドルコネクト」の二つが目に入る。この活動記録は1話ごとに40分~1時間程度の尺があり、かなり腰を据えて観る必要に駆られる。まずはこれを観てアイドルの人となりや関係性を把握しよう、と思いはすれど、実は一番大きな軸は配信番組に相当する「スクールアイドルコネクト」だ。
配信、と銘打っている以上、もちろん全ての配信はスケジュールに沿ったリアル進行。公式Xからの告知をチェックして、配信時間の前にアプリを開いて入場し、配信が始まれば見守るなり、コメントやギフトを打つことが推し活になる。これらの配信は全て声優さんがモーションアクターを務めているらしく、マジのマジで「生配信」であることに驚かされる。ちょっとした会話の間の揺らぎだったり噛んでしまったりという生配信あるあるはもちろん、全キャストがコメントを拾いつつ時間いっぱいにトークを展開する力量を当たり前のように持ち合わせ、それがかなりの高頻度で配信される。有識者曰く、通常のトーク等の配信「with×MEETS」が週に2~3回、生ライブの「Fes×LIVE」が月に1回が定例とのことで、これをやり切れる体力と実力を運営とキャストが持ち合わせていない限り成立しない、凄まじい試みだ。
今回、いくつかの「with×MEETS」のアーカイブを観た後、2月20日の生配信をリアルタイムでウォッチしてみた。すると、当たり前と言えば当たり前なのだけれど、過去のものを追うのとリアルタイムとでは体験の質がまるで違うのだ。スクールアイドルと一体化して「今この瞬間」に存在しているという実在感は、リアルタイムでしか味わえない。視聴者のコメントから思わぬ方向に話が展開し、本当の本当に「雑談」の雰囲気が醸成されていく中で、女子高生同士の会話をうっかり聴いてしまった際のどことなく後ろめたい感じも、圧倒的に生配信の方が強い。過去の配信を観るのももちろん楽しいが、他のファンと一緒に配信を見守り、その瞬間瞬間の感想や驚きがSNSのタイムラインを駆け巡る一体感は、アーカイブでは決して味わえない。
活動記録で言及される作品内世界では、配信がスクールアイドルの活動の場としてかなりメジャーになっているらしく、そのことも実在感を上乗せさせる。言うなれば、スクールアイドルコネクトこそが彼女たちのスクールアイドル活動の本場であり「表」で、その背後で描かれる日常や練習風景、アイドルたちそれぞれの成長や葛藤のドラマこそが「裏」である、という図式。我々“蓮ノ空のこと好き好きクラブのみなさん”は配信視聴者として蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブのことを応援し、一方で神の視点から彼女たちの活動記録を読み進め、理解を深めていく。その際、メインストーリーである活動記録の諸々が配信の内容に影響することはあっても、彼女たちは自分たちの物語が神から覗かれていることも知らないし、視聴者も生配信中にそんな野暮なことには触れない(あるいはそういうコメントがピックアップされない)。まるで一種の壮大なロールプレイのようではないか。みんなリテラシーが高すぎる。
そうした一連の流れは2023年4月から続いており、つまりはもうすぐ日野下花帆ちゃんがスクールアイドルになってから一年が経とうとしていて、学生である以上進級や卒業、新入生の入学などが想定される。元より「スクールアイドル」とは有限性とは切り離せない概念でありながら、そのことがより強調される仕組みを、あえて蓮ノ空は実行に移している。今画面の向こうで“生きている”彼女たちは、いつかはスクールアイドルでは無くなり、この学校から巣立っていく。主に版権上の都合ではあるだろうけれど、『アイカツ!』とではなく『アイカツ! 10th Story ~未来へのSTARWAY~』とのコラボ、というのが実に重たい意味を背負っているような気がしてならない。
まとめると、蓮ノ空に真剣になるということは「今後の配信を可能な限りリアルタイムで立ち合い」「彼女たちの春夏秋冬を自分のそれと同じようにリンクさせる」必要がある、ということになる。実時間と同期して進んでいく以上、その臨場感を真に味わうためには自分もそこに飛び込まねばならない。彼女たちスクールアイドルが「今やりたいこと」に邁進していく様を見て、そしていずれやって来る「終わり」と向き合うこと。ラブライブ!なのに質感としては『ペルソナ3』が近いかもしれないこの試みは、見届けなくてはならぬ!という強いモチベーションを喚起させ、我々は時間(と時折の課金)を費やすことでしか応えることができない。2年後の自分に「蓮ノ空がエモいぞ!」と言っても、それはすでに賞味期限切れなのである。
ここまで、コンセプトのメインであるリアルタイム性と、それを象徴する生配信に関する話をしてきたけれど、先程「裏」と呼んだ活動記録も、これがめっぽう面白いのが蓮である。
1話ではなんと(便宜上この言葉を使うけれど)センターの子が学校を脱走するという治安の悪い展開が含まれるものの、自分の夢が叶わないことを環境のせいにしていたことを改め、周りを巻き込むエネルギーを振りまく初期衝動型ラブライブ!主人公の格を見せつけた日野下花帆の躍動(2話ではいきなり歌う!)。良き先輩として振舞いつつも、時折口にする「昨年」に何か想いを残しているような乙宗梢。妙にキレのあるツッコミが冴え渡る、これまた過去に挫折を経験したと思わしき村野さやか。一人で完成する完璧ではなく、誰かと一緒に叶える芸術を求め言葉を探る夕霧綴理。初期の紫吹蘭を思わせる独白が忘れられない藤島慈。現時点で視聴済みの4話時点での印象だけど、彼女たちの一挙手一投足に目が離せなくなっているし、もう一人いるはずなのに中々出てきてくれないので超絶モヤモヤしている。
今はまだ、24年2月を生きる彼女たちに追いつくまでの時間。それから3月4月と、避けられぬ変化が彼女たちの前に立ちはだかり、これまでの一年とは全く違う一年が始まるはず。その頃には、自分のことを“蓮ノ空のこと好き好きクラブのみなさん”だと名乗れるくらいになっているのだろうか。アイカツ!目当てで始まった蓮ノ空との出会いが、もう自分の生活から切り離せないものになっているだろうか。
嬉しいことに、今回のコラボをきっかけに「アイカツ!を観ます」と宣言し、有言実行してくださっている“蓮ノ空のこと好き好きクラブのみなさん”を見かけることが多々あった。一体どの立場なんだという話だけれど、ありがたいことだなぁと思えるし、それにお返しできるとすればこうして「蓮ノ空楽しい!」という気持ちを書き残しておくしか思いつかなくて、衝動的にキーボードを叩いている。『アイカツ!』から思いもよらない形で回ってきた『蓮ノ空』へのバトンを握りしめて、いずれ終わりが来るスクールアイドルの物語に寄り添っていきたいし、これから『アイカツ!』に触れる人たちにとっても、大切な出会いになってくれたらなぁと、そう思ってしまうのだ。