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感想『Vシネマ 仮面ライダー鎧武 鎧武外伝』

 鎧武を全部やる、と誰に頼まれたわけでもない自分だけのマラソン。今回は冬映画『MOVIE大戦フルスロットル』以降に発売された2本のVシネマを観たので、軽い感想を流していきたい。

仮面ライダー斬月

 本編終了後のVシネマ展開も当たり前となって久しいが、『鎧武外伝』は実は『仮面ライダーW RETURNS』以来、実に4年ぶりの企画。それゆえに発表当時こそ驚いたし、斬月とバロンの2篇合わせて60分、という続報にやや尻すぼみに感じたことも覚えている。が、今となっては後に『デューク/ナックル』がリリースされたし、近頃問題となっている東映の制作体制の問題を思えば、無知ゆえの贅沢なお悩みだったな、なんて。

 Vシネマで展開された『鎧武外伝』はナックル篇を除きTVシリーズ内の時間軸の物語で、未だヘルヘイムの浸食や人類同士の争いが悩みのタネであった第2クール付近のヒリつくような雰囲気が再び楽しめる。『斬月』は葛葉紘汰に対して呉島貴虎が“大人の倫理”をつきつけた、その殺伐とした時期に起きたとある事件と別れを描いた物語である。脚本は冬映画に引き続き、鋼屋ジン。

このままでは地球はヘルヘイムに侵食される―。衝撃の真実を葛葉紘汰に語った後、ユグドラシルの黒影トルーパーやシドが何者かに襲撃される事件が発生。クラックを自在に操る謎のアーマードライダーの出現に頭を悩ませる貴虎の前に、彼の幼少期の頃の元使用人・朱月藤果が現れ、貴虎と光実の父である呉島天樹の訃報を知らせる。

あらすじは筆者著

 地上波の放送規制から解き放たれたVシネマは、出血・暴力表現がTVシリーズより強化されることが多いが、襲撃されたシドの血が壁を染める表現がやけに生々しい。と同時に、本作にはどこかアダルティな雰囲気が漂う。久保田悠来氏のいつになくアンニュイな表情がそうさせるのか、あるいは使用人とご主人様の禁断の恋を予感させる接近によるものか。朱月藤果は幼くして呉島家に仕えることになった少女だが、歳の近い貴虎にとっては距離の近い存在であり、不味いアップルパイが彼にとっての安らぎの象徴だった。藤果を演じるのは、金八先生第7シリーズでの忘れがたい演技を披露した岩田さゆり。

 幼い貴虎の元に藤果を置いた父、呉島天樹を演じるのは、みんな大好き寺田農。出演シーンこそ短いが、どこかチラつく園咲琉兵衛の面影が、天樹の只者ではなさを物語る。厳格に息子を鍛え、「ノブレス・オブリージュ」を徹底させた男だが、その裏ではユグドラシルにとって有用となる人材を育てるための育成機関を有しており、中には非道な人体実験の痕跡も。ユグドラシルはクリーンなグローバル企業としての外面を持つが、その巨大企業を支えるのは天樹によって育てられた子どもたちであり、凌馬もまたその一人であることが今作で明かされる。

 襲撃犯にして謎のアーマードライダー・イドゥンの正体は朱月藤果であった。彼女は呉島天樹を殺害した後、ユグドラシルと呉島への復讐として活動し、その刃は貴虎に向けられる。ウォーターメロンロックシード、ゲネシスドライバーの力でようやくイドゥンを撃破するが、貴虎は藤果にトドメを刺せなかった。非道な実験の犠牲者であり、父が犯した罪の象徴である藤果を切り捨てられない貴虎は、心の底では犠牲を伴う救済を望んでいないの“本当に甘い人”なのであろう。己の倫理と課せられた使命との間で苦悩し、藤果の優しさに少しだけ身を委ねるようなシーンの艶めかしさを、自分で律してしまうのが貴虎という人なのだ。

 非道な父の教えの中で唯一信奉する「ノブレス・オブリージュ」とは、死してなお貴虎を縛り付ける鎖となった。“たとえどれほどの罪を背負っても、人類を救ってみせる”と誓った男には60億の人類を見捨てるという十字架が背負わされているし、何よりこの頃はまだ沢芽市を焼き払うスカラーシステムが健在である。1を生かすために10を切り捨てなければならないこの男を動かすのは、持つ者が成すべき責務、ただそれだけである。その鎖を断ち切った紘汰は、貴虎にとっても間違いなく救いのヒーローであったことだろう。

 そんな未来が訪れることも、自分の背中を見つめる弟がすでに道を踏み外していることを知らぬまま、兄は今日も自分の信念を貫きとおしていく。犠牲を伴う血塗られた道だとしても、呉島貴虎の救済とはそういうものなのだ。

仮面ライダーバロン

『斬月』と時を同じくして、駆紋戒斗はヘルヘイムの森でオーバーロードを探していた。目指すは、世界を変える大きな力を我が物とするため。
それと同じころ、戒斗と瓜二つの顔を持つ南アジア某国の王子・シャプールは、せっかくの日本旅行にもかかわらずホテルに缶詰め状態の日々に鬱屈を感じていた。シャプールはサガラの配信で見かけた戒斗と接触し、入れ替わりに成功。つかの間の自由を謳歌する中、執事のアルフレッドは王子の謀殺を画策していた―。

あらすじは筆者著

 駆紋戒斗はその不遜なキャラクターと、それを演じる小林豊氏とのギャップが愛された人物ではあったが、その“ギャップ”を本編にまるごと持ち込んだのが『バロン』である。『ファイナルステージ&番組キャストトークショー』を観て思ったのだが、アイドル出身ということを差し引いても小林豊は誰よりもキャピキャピしていて、誰よりもギャル。自分が可愛いということを自覚している、恐ろしい男なのだ。

 小林豊と同一視していいですよ、と言わんばかりのシャプール、ついにケーキまで作り出して、やりたい放題だ。だが、彼は本国では養子として迎え入れられ、その後に後継ぎとなる実子が生まれ、肩身の狭い立場にある。財団の長である養父から用済みになったと言わんばかりに命を狙われ、執事のアルフレッドは自分を守ってはくれないどころか、自分の野望の足がかりとして利用しようとしている。

 そんなシャプールにも「闘え」と、運命に叛逆することを促す戒斗。TVシリーズでは「実家の工場をユグドラシルに奪われた」止まりの描写であったが、本作では工場を多額の金と引き換えに失った父親から暴力を振るわれ、母は死亡、父は自殺という、凄惨な過去を経験していたことが明らかになる。戒斗が弱者そのものを、あるいは弱者を虐げる者を激しく嫌うのは、優しき父が暴君となり、そして自ら命を絶つという弱さを幼かった彼の心に刻み付けたからだろう。自分はあんな弱い人間にはならない、そして弱かった父のような人間が踏みにじられない世界に変えてやりたい、と。

 シャプールは確かに、腑抜けのような弱き男だったかもしれない。彼の「王子」という称号は他者から与えられたものに過ぎず、父に命を狙われるという不幸はさておき、彼はまだ自分で運命を切り開く覚悟を成してはいないのだ。それに対し戒斗は、自分の信念を一度も曲げることなく最後まで闘い抜いた、不屈の男。爵位としては最下層のバロン(男爵)からロード(君主)にまで至ったその芯の強さは、誰の陰謀にも邪魔されない生き方を支えるものであったことを、全47話の物語で目にしたばかりであった。

 戒斗の信念に感化されたシャプールは、祖国に戻って父と闘う決心を決める。その顛末は小説版で明かされ、駆紋戒斗の生きた証がこうして残ることに、不思議とこみ上げるものがある。シャプールという一人の弱者が強者へと登り詰める物語を、今も御神木から見守っているのだろうか。

仮面ライダーデューク

 続く第2弾として発売された『デューク/ナックル』は、後に世に出た『小説 仮面ライダー鎧武』のプロローグであり、外伝シリーズを通じて登場する新たな敵「黒の菩提樹」と狗道供界が登場する。

人間が神に至る発明としてドライバー開発を担う凌馬は、人類救済の手段として性能よりもコストカットと量産を優先する貴虎に失望していた。そんな中、ユグドラシル内で未知のロックシードを用いた自爆テロが起こってしまう。テロを行ったのは、新興のカルト集団「黒の菩提樹」であり、凌馬も知らない謎のロックシードを与えているのは前任研究者の狗道供界であることがわかる。ところが、狗道は初期の実験で消失しており―。

あらすじは筆者著

 冬映画にも感じたことだが、『鎧武』はその結末ゆえに新しい脅威を捻出するのが難しいタイトルだと素人目に思っていたが、ヘルヘイム研究者であり凌馬の前任者という設定のおかげでドライバー問題は解決するし、ロックシードの出どころについても小説版にてフォローがなされている狗道供界。凌馬への激しい嫉妬心を持ち、霊体を獲得した彼は世界救済のために偏った思想を撒き散らし、市民を爆弾テロの実行犯へと洗脳してしまう。

 狗道供界が変身する仮面ライダーセイヴァー、戦極ドライバーとゲネシスコアを有し2つのロックシードで変身する唯一のライダーだが、エナジーロックシードの開発には至れなかったというところで凌馬との格の違いが描かれているのが興味深い。武神鎧武のブラッドオレンジロックシードがまさかの再登場。

 本作では、ゲネシス組の過去も明かされる。シドは錠前ディーラーになる前は麻薬ディーラーであり、湊耀子は元企業スパイ。そして凌馬は、元は冴えない研究員だったが貴虎に戦極ドライバーの研究を認められ、親友にも似た友情が芽生え始めるも、当の貴虎がプロジェクトアークの責任者になってからは気持ちがすれ違い始め……となんだか湿っぽい関係性が強調される。

 貴虎はTVシリーズ第2クールの状態なので、自分がゲネシス組から半ば切り捨てられる寸前であることも、悪意の刃を向けられていることも全く気づいていない時代。凌馬の皮肉も意に介さず、「俺とお前で作り上げた戦極ドライバーが負けるはずもない!」とか言っちゃう。人たらし主任。

 人間を越えようとする狗道供界と戦極凌馬は、その方法も才能も違えており、融和などありえない。神に至るためのドライバーとロックシードを、自爆テロの道具などというつまらない方法で使用されたことに怒り、エナジーロックシードの力でセイヴァーを粉砕。“人間としては”すでに死んでいる狗道供界は一度は退場するが、その暗躍はさらに大きな波乱を巻き起こす……ということで続く。

仮面ライダーナックル

 Vシネマの外伝作品では唯一の本編の後日談にして、主役はなんとザック。初めこそ戒斗の取り巻きAでしかなかった彼が、アーマードライダーに変身する力を手に入れ、作中でも屈指の熱血キャラとなり、なんと今作では鎧武以外としては初のジンバー形態の獲得に至る。特大出世を果たしたザックの物語は、シャプール同様に戒斗の意志を継ぐための、強さとは何かを模索するための闘いが描かれる。

メガヘクスとの闘いの後、戒斗の死と共に自身も目標を失っていたザックは、ダンサーとしての自分を試すため単身ニューヨークへと向かう。チーム・バロンはペコに任せ、一年で帰ってくると約束するザックだが、オーディションを受けてもあまりいい評価は得られなかった。
そんな中、ザックはペコの姉であるアザミからペコが戻ってこないと相談の電話を受け、緊急帰国する。城乃内の情報では、かつてチーム・バロンを追放された元メンバーのシュラが「ネオ・バロン」を名乗り、勢力を拡大しているという。ペコを助けるべくネオ・バロンの元へ向かうが、ペコは強さを求め自分の意志でネオ・バロンに所属しており、さらにシュラはバナナロックシードでブラックバロンに変身した!

あらすじは筆者著

 何かを成し遂げたい、何者かになりたい。アーマードライダーとしての闘いが終わり、それぞれが自分の人生に帰っていく中で、一旗あげようと海外に挑戦するザック。ナックルとして闘いぬいた経験が自信となったか、あるいは無策な挑戦か。それでも決断し行動するザックを見つめる、(TVシリーズでは)ライダーになれなかった男・ペコの心情を思うと、切ない。

 自分も何かしなければ、という想いが彼を悪の道から抜け出せなくさせてしまう。ペコが強さを求め所属した「ネオ・バロン」とは力の強さこそを第一と考える集団であり、長であるシュラは駆紋戒斗の理念を曲解し肥大化させた人物だ。地下闘技場にて強さを競わせ、勝利した者にはザクロロックシードを与え、ネオ・バロンの構成員に認める。ザクロロックシードがどれだけ危険なものかは、『デューク』で描かれた通りだ。

 しかも、シュラはネオ・バロンの構成員に与えたザクロロックシードを「箱舟」として、それ以外の弱者を抹殺する「セイヴァーシステム」を有していた。強さこそが全てという選民思想はかつてフェムシンムが絶滅に至った要因であり、TVシリーズ第2~第3クールにおける絶望と諦観の再演をシュラは担っている。力による支配は種の間引きとなり、強者はより強い者に滅ぼされる。フェムシンムという一つの種族が絶滅してしまった顛末を知らない若者は、強さの意味を知らぬまま暴走する。

 対するザックとペコも、自分の弱さと向き合うことになる。戒斗の求める強さの意味を忘れ、偽りの強者に縋ったペコをザックが殴り、ザックも自分の弱さを吐露する。ニューヨークに渡ったザックだが、彼の足は戦闘で受けた傷が完治しておらず、その痛みによって思うように踊れず良い結果を出せずにいた。そのことを言い訳にしてきた心の弱さこそ、ザックが強者になり切れなかった要因だった。

 強く在るために、弱さと向き合って闘うザック。駆紋戒斗がチームを「バロン」と名付けたのは、貴族の様に誇り高く生き、そして最下層から這い上がるための覚悟を刻み付けるものだった。シュラにはその誇りは欠片もなく、ただバロンの名を汚すだけの卑怯者に過ぎない。故にザックは負けられないのだ。戒斗のゲネシスドライバーのコアを受け継いでジンバーマロンに変身し、ブラックバロンを打ち破る。

 以前のnoteで、戒斗が強さを認めたのは紘汰と舞、終盤の光実のみと書いたが、実はその中にザックも含まれていたことが、ラストで明らかになった。思えばザックの初変身は、インベスによる市民への被害によってビートライダーズの立場が危うくなり、それでも踊りたいと合同ライブを舞たちが実施した際に、その進行を邪魔するインベスと闘うためのものだった。その後も街の平和を守るために闘い、戒斗を止めるために決死の爆弾作戦も実行に移した。彼もまた、守るべきもののために身体を張れる強者だったのだ。

 戒斗とのラストダンス。ヘルヘイムやインベスのことも忘れ、ただただ自分のために踊るザックの姿は、思い返せばTVシリーズ序盤以来だったかもしれない。戦士としての荷を下ろし、勝利するためではなく前に進むために踊るわずかばかりの時間は、ここまで身を粉にして闘ってきたザックへのささやかなご褒美のよう。良かったね、ザック。

 鎧武マラソンもいよいよ終盤戦。「黒の菩提樹」との闘いの行方は小説版へ。そしてVシネマ以外の外伝でようやくゴール。年末年始はまだフルーツ漬けの日々が続きそうだ。

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