久しぶり 日記 あいつの靴 ナイキ
今日は業務時間のうちの80%くらい、することがなかった。
とはいっても「仕事が全部終わった」ということではなくて、いわゆる“手元にボールがない”というやつ。
顧客の回答待ちとか、発注した物の納入待ちとか、要は手持ちのタスクを自分の手動で動かせる状態でないものが、たまたま重なった、という。出来ることがないのに、仕事が終わったわけでもない。ぜんぜん心スッキリじゃない。
空いた時間(仮)で何しようかと、フラフラ悩む。出先に行く用事はないし、積極的に他社にアポを取るような仕事でもない。お客様商売なので、予めあれやっておいて後々楽できるぞ、な業務でもないので、「貯金」を貯められないのが痛い。どうせ土曜も出勤する羽目になる。
仕事は作るもの、とはいうものの、今自分のタスクを増やして、そんな時に相手からボールが返ってきたら、確実にパンクする。それを思うと、自分に負荷を増やせない。
じゃあ他の人の仕事を手伝う、とかもあるだろうけど、↑と同じ理屈で、いざ自分の手が塞がった時、自分からやると申し出た作業を放り出すのが嫌だし、格好つかないので、それも言い出せない。
結局、我が身可愛さで、営業所全体の効率とか、助け合いの精神とか、そういうのを蔑ろにしてしまった。こういうずる賢さばっかりスキルツリーを伸ばして、他のステータスがまったく育たない。ちょうど流れるTVCMのフレーズが耳に痛い。そこに愛はあるんか?って。
じゃあこの暇はどう潰すかといえば、人様の日記を読ませていただいてた。
インターネットで知り合った……という深いレベルですらまだない、大学生の方の日記。日々のいろんな出来事を、自分にはない語彙と行間で綴られている。たのしい。こんな日常の切り取り方があるんだ。
その瑞々しさにあてられて、日記を書きたくなった。でも、今の自分は「職場でやることなくダラダラインターネット給料泥棒」だ。普遍だけど、面白くない。劇的じゃない。
なんだかな、と思いながら、たくさんの人の、数えきれない日記を読んだ。結局、投げたボールは一つも打ち返されなかった。野球ならMVPだけど、会社員としての打率はゼロ、落第、戦力外通告。何の成果もなく、唯一出来るのは労務費の削減。すなわち定時退社。
繁忙期なのに定時退社。不思議だ。心が弾む。でも、自分の帰りが早いのは、売上が低いということ。げんなり、意気消沈。
家路に着く前に、コンビニに立ち寄った。ハンドソープが切れかけていたことを、帰宅寸前に思い出した。少し歩けばドラッグストアで安く買えるけど、今日は雨。こういう時に「コンビニエンス」の意味が染みる。
レジに並ぶ。前の人の会計が終わった一瞬の隙を突いて、初老の男性が割り込んできた。水とガムだけを購入し、PayPay払い。操作にまごつくこともなく、一分も経たない内に会計は終わり、男性は店を出ていった。
あまりに素早い出来事なので、文句を言うタイミングを逸してしまった。店員の方がすみません、と言われたので、大丈夫ですよ、と返す。別に急いでいたわけでもないし、後ろで待っている人もいなかったし、ルールを破った者を罰するほどの正義感も気力もないし。難なく会計を済ませ、店を出る。
そういえば、出口側のレジに並んでいて、奥のレジで会計を終わった人が通る間を空けるため、会計中のお客さんからやや距離を開けて立っていたことを思い出した。だから、例の男性は私が並んでいることに気づかず、「割り込んだ」という意識はなかったのかもしれない。そうだ、そうに違いないと、自分の中で納得させることにした。怒ってるわけじゃないけど、こうして自分の中で腑に落として、この件を終わらせようとした。
コンビニを出た直後、店の近くで煙草を吸う、先程の男性を見かけた。そういえば、男性はいわゆるランニングウェアというやつを着込んでいて、ウェアは先ほどから降りしきる雨で濡れていた。彼は、この天候でも日課のランニングは欠かさなかったのだろうか。
じゃあなんで煙草吸ってんだよ、と思った刹那、男性は一服を終え、屈伸運動を挟んだ後、私とは正反対の方向へ走っていった。愛用のスニーカーは元は白かったはずなのに、使い込んでいるらしく汚れていたけれど、その中でひときわ、ナイキのロゴマークが目立っていた。
健康意識の高い人なんだな。手元のレジ袋には、ハンドソープの詰替え用と、缶ビールが入っている。仕事に達成感のない日に飲むビールの味やいかほどに?と思って買ったけど、どうもそれすら後ろめたくなってしまった。
いつもより苦いかもしれない。今夜のスーパードライは。