新生児期の思い出/風通しのよい育児
娘が生まれて気が付けばあっという間に100日が過ぎていた。ようやく100日なのか、やっと100日なのか。長いような短いような、今までの人生で経験したことのない喜びと不安でいっぱいで、振り返るとあっという間の100日だったと思う。
気が付けばもうカレンダーは8月、お盆も終わり、夏休みもあと少しというところで、でも私の気持ちは未だに娘が生まれた春のまま、あそこに取り残されている気がする。こんなふうに、今年は嵐のように過ぎ去っていってしまうのかもしれない。
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新生児期。
新生児とは、赤ちゃんが生まれた日から生後28日未満までの赤ちゃんのことを言うのだけれど、一般的に最も赤ちゃんのお世話が大変な時期だ。それは、お母さんが身体的に産後すぐでしんどい時期というのもあるし、赤ちゃんが昼夜問わずに3時間おきに授乳が必要で、まだ生活リズムが整っていないから、というのもある。
ちなみに、産褥期というのもある。これは、お母さんの出産後の体が元に戻るまでのおよそ6〜8週間の期間のことで、この時期、お母さんはなるべく横になってなるべく安静にして過ごさなければならない。(ん…?なるべく安静…?無理では…?)
とまあ、お気付きの通り、産褥期と新生児期はかぶっているのである。つまり、お母さんは、産後のボロボロにしんどい体で、いちばん大変な新生児期を過ごさなければならない…。その上に、産褥期が終わったからといって、お母さんはすっかり元通りの生活を送れるわけでもない…。体力はとても落ちているし、なかなか悪露が終わらないこともあるし、体の節々は痛い。
私の場合、どれくらい赤ちゃんのお世話の知識を入れていたか、というと、ざっくり最低限の生活リズムとオムツ替え、ミルク、沐浴なんかの流れを動画で見て、1冊雑誌を読んでおいたくらい。(たまごクラブがなければ、私は妊娠生活と出産を乗り切れなかったと思います、ありがとうベネッセ…)(動画って分かりやすいのだけれど、どうしてもその動画を作っている人の個人的な意見が強い部分がある気がするのよね。その点、出産や育児って本当に人それぞれ。色んな人の意見や経験を集めて、まとめてある雑誌はとても役に立ったなぁと思う。)
なんというか、出産があまりに未知のことすぎて、その先のことまであまり想像がつかなかった、というのが正直なところ。妊娠後期は、みなさん、どれくらい勉強してるんだろうか…と思いつつ、いやでももう自由に過ごすことができる時間なんて今しかないし、なーんて思いつつのんびり過ごしていた気がする。
で、実際のところ、どうだったのか。
というと、赤ちゃんのお世話ももちろん大変なんだけど、自分の体のボロボロ具合が想像よりかなり酷かった。たぶん、元気なときだったらここまで赤ちゃんのお世話も大変ではないんじゃないだろうか。
まず出産後すぐ、私は高熱が出た。分娩室から病棟に戻るストレッチャーの上で、何だか寒気がすごく、ブルブルしていて熱を測ると38℃を超えていた。すぐ下がるよ〜!と助産師さんはニコニコしていたものの、意識は朦朧としているし、空腹はすごいし(人生で一番の空腹だった)、おそらく出血が多かったからか、頭もクラクラした。体中が筋肉痛で痛い。その日はロキソニンを飲んでなんとか数時間寝たものの、かなり辛い夜だった。で、次の日から母子同室が始まるのである。え?この体で?というのが正直なところである。だって、歩くのもヨロヨロなのだ。ベッドに座ると会陰切開の傷が痛いし、トイレに行くのも一苦労なのだ。
白目を剥いていると、翌朝あっという間に赤ちゃんが運ばれてきて、今度はその可愛さに白目を剥いた。起きているのか寝ているのか、何だかぽやほやしていて、産まれたてほやほやの新生児。こんなに可愛い赤ちゃんがお腹の中にいたのか…とお腹をさすってみる。(ちなみに、出産してもお腹はすぐにはもとに戻らない。)おててを触ってみると、ぎゅーっと握り返してくれる。可愛い。とにかく可愛い。
とまあ、娘の可愛さのあまり、一瞬自分の体の辛さを忘れかけていたけれど、やっぱりもちろん体は辛い。筋肉痛で悲鳴をあげている体でなんとかミルクのやり方や授乳の仕方を教えてもらい、初日の夜は新生児室で預かってもらって、少しだけゆっくりと体を休められた気がした。
そして、2日目から夜も娘と一緒に過ごすことになったのだけれど、緊張のあまり全く眠れない。これが産後ハイなのだろうか。眠りたくても眠れない。眠いのに眠れない。そして、新生児、あまりにぐっすりと眠っているので息をしているのか心配になってしまう。ベビーセンサーなるものがベッドについているのだけれど、それでも不安になってそっとお布団の上に手を置いてみる。ちいさなちいさな、大人よりちょっと早い呼吸が感じられてホッとする。真っ暗な部屋の中で、3時間後のアラームをセットして目をつむる。(まあ、眠れないんだけどね。)
そんなこんなで気が付けばあっという間に入院生活が終わろうとしていた。入院中は、夜中は娘はほとんど寝ており、泣くことがなく、え、この子夜中はぐっすり寝るタイプ…?と思っていたこととか(そんなわけはなく、退院すると夜中はしっかりと泣いていた)、とにかくご飯が美味しくて救われたこととか、出産しても体重は大して減らずにびっくりしたこととか(本当に減らない)、ホットアイマスクがとても役に立ったこととか(お昼寝で重宝した)、助産師さんが救世主のように見えたこととか、とにかく色々あったけれど一瞬だった。そう、問題は、退院してからなのだ…。
とにかく新生児期は眠れない、睡眠不足がしんどい、という話は色んな人から聞いていた。我が家は、お互いの親が仕事をしていることとか、距離の問題とか、夫がフルリモートなこととか、色んなことを総合して、里帰りをせずに出産した。
ここは万全に対策しておこうということで、夫と私で交代制にし、21時に私が寝て、3時に起き、夫と交代するということで新生児期から生後2ヶ月くらいまでを乗り越えた。
なので、夜中ワンオペで乗り切っているお母さんや頻回授乳で寝ることができないお母さんに比べたら、確実に睡眠は取れているはずだった。
それでも、しんどい。何がしんどいかっていうと、まず会陰切開の傷が痛い。1ヶ月くらいでよくなりますよ〜と言われていたのだけれど、私はなかなか痛みが取れず、円座クッションや低反発クッションが欠かせなかった。痛みも出血も地味に続いていたので、念のため病院に行ったりして、産後3ヶ月には気が付くと消えていた、という感じ。
そして、その傷が痛む体で慣れない抱っこを毎日何時間もしていたので腱鞘炎のような痛みが出てきてしまった。湿布を貼ったり、痛み止めを飲もうと思っても、今度は授乳をしているので、それが心配になってしまったり。(結局、医師に問題ないと言われたのだけれど、できれば薬は飲んだりしたくないなあという気持ちだった)湯船にも浸かることができないので、体をゆっくり癒やすとかができずに、バキバキの体のまま毎日毎日抱っこを続けていた。
今なら抱っこ紐を使ったり、バウンサーに乗せたりしてあやすのだけれど、私が持っていた抱っこ紐は新生児の娘には大きすぎてフィットせず(今は使えるようになった)、バウンサーも後になって買ったので、その頃は本当に抱っこ抱っこの日々。新生児は基本的にほぼ寝ていると思われがちだけれど、3〜4時間くらいは起きている時間がある。で、助産師さんいわく、その時間が1日のどこに来るかはランダムだそう。娘の場合は、夕方とか午後に3〜4時間ほど起きている時間があって、その時間はずっと泣いていた。魔の時間、という感じだった気がする。
そして、辛いのが、せっかく6時間ずつ眠れるように交代制にしていても、なぜか体は勝手に3時間で起きてしまうんである。これは多分ホルモンバランスの関係なのだと思うのだけど、かなりしんどかった。眠りたいのに眠れない。眠りも浅く、すぐ起きてしまう。この「3時間で勝手に起きてしまう現象」は、私は産後2ヶ月くらいまでずっと続いていた。お母さんの体は、短時間睡眠でも回復するホルモンが出ているとかいうのだけれど(ほんまかいな)、ぐっすり眠ることができないってなんというか、いつ終わるのか分からない、生温いしんどさがずーっとある感じ。眠れないと、1日が終わった気がしないのよね。
とまあ、こういうしんどさに加えて、例えば関節の痛みとか(これは今も続いている)、腰痛や肩こりとか、そんな「まあなんとかやり過ごせてしまうけど、地味にしんどい痛み」みたいなものが次から次から出てきて、ああ、出産って本当に大変なことだったんだな…と繰り返し繰り返し思った。
そして、元来フットワークが軽く、外出が好きな私にとって「1ヶ月ずっと家で過ごす」というものなかなかにしんどかった。3月にも一度、切迫早産になってしまい、1ヶ月自宅安静をしていたのだけれど、再びである。家から出てはいけない上に、慣れない赤ちゃんのお世話、ボロボロの体、という「人生でこんなにしんどい時期はなかなかないんじゃないか」っていうことがドーンと1ヶ月の中に来た感じだった。
とまあ、ここまでしんどかったことばかりを羅列してしまったのだけれど、しんどさと同じくらい、喜びもあった。
新生児って、本当に特別なのだ。なんというか、むちむちでふわふわの赤ちゃんらしさ、みたいなものとはまた違って、もっとか弱くて、今にも壊れてしまいそうな、そんな時期。今写真を見ると、足がとっても細くて、体もちいさくって、動きもずっとゆっくりで、さっきまでお腹の中にいたんだな…ということが伝わってくる。ミルクを30ミリ飲むのにものすごーく時間がかかって、何度も眠気に負けそうになりながら頑張って飲ませたり、うまくゲップができなくて泣いてしまったり、すぐにウトウトしてしまったり…。ああ、まだ体力がほんとうになくって、呼吸をするだけで精一杯なんだな、と胸の奥がつーんとなる。そして、頑張って生まれてきてくれてありがとう、とつい数日前までお腹の中にいた娘の寝顔をこうして見ることができることに深い喜びを感じていた。
そんな、本当にしんどかった新生児期だけれど、とにかく色んな人に助けてもらった時期でもあった。
私の産院は、2週間健診があったので、退院して実際にお世話をしてみて、分からないことはこの健診で助産師さんに教えてもらった。(行くまでは本当にずっとそわそわしていた。無事に病院にたどり着くのか不安がすごかった。)特に、娘の場合は吐き戻しが多く、ちゃんと体重が増えているのか不安で仕方がなかった。吐き戻しはよくあること、と言われるけどこんなに何度も吐き戻していていいのか、ミルクを飲ませすぎなのか、どこか体調が悪いのではないのか…。結局、順調に体重は増えており、スキンケアなども問題ないとのことで、本当に、本当にホッと安心した。
他にも、訪問で来てくれた助産師さんに色々と相談したり、自治体の産後ケアで体を休めたり、赤ちゃんのことを相談したり、育児中の友人に相談したり、家族に話を聞いてもらったり…。以前、友人に「とにかくひとりで育児をしないことだよ!」と言われたことがなんだかとても記憶に残っていて、なるべくひとりで抱え込まないように、とにかく誰かと話したり、連絡を取るようにしていた気がする。
育児ってほんとうに、一対一で誰かと向き合うということだから、だからこそもちろんそこから深い深い愛情や絆が生まれてくるわけだけれど、一歩間違えると親も子も何かを抱え込んでしまう危うさもあるわけで。そして、どうしても育児や家族の中での悩みってオープンに話しづらい雰囲気があるので(家族の問題だから、とそっとされてしまいがち)、なるべく風通しをよくしておきたいな、と思っている。
どんな育児がしたいかな、とずーっと考え続けていたけれど、そうだな、私は風通しのよい育児ができるといいな、と夏の終わりの風を肌に感じながら思う。
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今日は、娘と夫と朝から自治体の支援センターに行ってみた。新生児の頃は新生児微笑しかしていなかった娘だけれど、今はニコニコとよく笑うようになり、スタッフさんに終始ニコニコ笑いかけていた。まわりにはずり這いをしている子、もうすっかり歩くことができるようになっている子、色んな子が遊んでいる。
あの頃、新生児の娘を抱えながら、自分の体の不安と育児の不安と、とにかく色んな不安に襲われていたけれど、まるで世界で育児をしているのは自分だけのような気持ちに襲われていたけれど、ちょっと外に出るとこんなにたくさんのお母さんやお父さんたちがいたのだ。あのお母さんも、あのお父さんも、みんな、みんなこの時期を乗り越えてきたのか、そうかそうか、私だけじゃなかった。みんな、一緒だったのか。きっと、あの眠れなかった夜も、不安で泣きそうだった夜も、どこかで同じような思いを抱えた人たちがいたのだ。ひとりじゃなかった。
帰り道、抱っこ紐の中で眠ってしまった娘の寝顔と、まだ夏を感じさせる青い空と形のよい雲と、風を肌に感じながらそう思った。
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