【ショートストーリー】宇宙人
ジュッと空気が焼ける匂いがした。レーザーだ。
オレは瓦礫の陰に隠れる。そのままジッと身を潜めた。
何も起きない。
ゆっくりと顔をのぞかせる。
奴らの二足歩行マシーンが見える。男がひとり捕まってしまったようだ。触手に絡め取られ、身動きができないでいる。
触手が動き、男はマシーンの中へと姿を消していった。
こっちには気がついていないらしいと判断した瞬間、赤いレーザーが放射され、瓦礫を薙いでいく。
直撃しなかったが、危険だ。おれは身を低くして走った。
宇宙人は突然、地球を襲ってきた。
巨大な母船から、二足歩行のマシーンが降り立ち、地上を破壊していった。その圧倒的な破壊力に、地球は蹂躙されていった。
奴らは逃げ惑う人間を、触手でとらえる。捕まった人間がどうなるのかは分からない。食料にされるとか、奴らの母星に連れていかれるとか噂されていた。
夜になった。
休める場所を探さなければならない。
倒壊したビルのそばに地下街の入り口を見つけた。瓦礫で半分以上塞がれてはいるが通り抜けできる。
地下には先客がいた。
男女ふたりに、女の子がひとり。話を聞くと家族だとのこと。子供が小さいので逃げ回ることができず、ここから動けないとのことだった。
そういうことならと、出て行こうとしたオレだったが、一晩だけなら滞在してもいいと快く迎えられた。
深夜。
気配で目を覚ます。
入り口のあたりが明るい。身体は一切動かさず、目だけを動かして確認した。
何かは分からないが、入り口からこちらをうかがっている。
虫の鳴き声のような音がした。
——?
家族連れは気がついているのだろうか?
また、虫の鳴き声。さっきより大きくて不快な音。仲間に何か伝えているようにも聞こえる。
女の子が悲鳴をあげた。
——マズイ
身体を起こして、入り口を見る。何かが去って行くのが見えた。
外でモーターのうなりのような音がする。
——バレた。
オレは、自分が囮になるから、ここから逃げるように指示すると、入り口から駆け出した。
左側100メートルぐらいのところに、マシーンの脚部が見える。センサーの光がオレをスキャンしたのが分かった。とにかく全力で走る。家族が逃げるための時間稼ぎだ。
触手が襲ってきた。どこかに逃げ込まないと。あせって油断してしまった。瓦礫に足を引っかけて、派手に転倒した。同時に触手が身体に絡みつく。
足が空を蹴る。
あっという間に地上を俯瞰できる高さまで持ち上げられていた。触手は金属でできているようだ。オレの予想と違った。マシーンは宇宙人の戦闘用のスーツ的なもので、触手は奴らの手だと思っていたが、そうではなかった。まあ。こうなった以上どうでもいいことだけど。
オレは一度マシーンよりも高く持ち上げられた。
マシーンの上部にハッチがあった。見ているとそれが開き、おれは中に放り込まれた。
タコが三匹いた。
操縦席に三匹のタコが座っていて、操縦桿を握っている。放り込まれたオレにふりむいて、ちょっとのあいだ観察していたが、今は操縦に専念している。
もう一度いうが、タコだ。
地球をほぼ壊滅状態にさせた恐ろしい宇宙人の風貌は、完全にタコなのである。
昔の人が想像した宇宙人が、たしかタコ型だったと思うが、あれはあながち間違いではなかったようだ。
「ダッセェ」
俺は思わず口に出してしまった。
宇宙人はタコみたいな形をしていることを人類が共有できれば、この戦争、逆転できるかもしれない。
(終)