清らかな世界

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あまり見かけないガラス製のバードバス。
円形部分が大きく高さも十分にあるそれは静かな森の中にある雑貨屋の庭に置いてある。
店の人はいつも店内におり、外で見かけた事は一度もない。
いつも小綺麗に手入れされていて、庭口から大小様々な雑貨と自然が混じり合うように可愛らしく配置され小さな愛をたくさん感じる場所だ。
広めの敷地に三軒の建物がバランスよく配置されている。一際大きくて赤い屋根がポイントの建物が雑貨屋だ。その広い敷地全体が細々としたもので溢れていてとても愛らしい空間なので散歩に出たら つい寄り道したくなる場所だ。

自然光に光るガラスのバードバスの中には小さな世界が広がっている。
沈む灰、揺れる緑、動く赤、清らかな水。

その小さな世界に魅了されている子がいた。
身動き一つしないで長い間 美しい水中を覗き込んでいる。
私はぼんやりと視界に入るその子を遠目に感じていた。

何かが動いた気配を感じ視線を向けると、その子が水中に顔を沈めていた。
何をしているのか事態を把握出来ないまま近づいてみる。
その子はブクブクと気泡を吐き出しながら何かを叫んでいた。
「なんとかなる」そう聞こえたような気がした。
水中で。小さな美しい世界で。

私はただの通りすがりの人間で、その子はただの見ず知らずの人間。
小さな世界を前に
一瞬で現実を摩訶不思議な世界に変えたその子と、その場にたまたま居合わせただけの私。

その子は何事もなかったかのように顔を上げ、サッと水気を払う。
まだ水中にいるかのような清々しい顔で、少しはにかみながらその場を離れて行った。
その一瞬の出来事を貴重に思う私が一人 その場で深呼吸して佇んでいた。

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