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箱の中で

 思えば、寂しい夜はいつだって一人だった。
連絡がほしいときに限ってあなたからの着信は来ないし、窓を開けた6畳間に午後6時を知らせるお寺の鐘の音と子供の声、誰かの夕飯の匂いが吸い込まれていく。やることのないこういう日はつい考え事をしてしまう。今はもう過去の人間となったあの人のことを。もう連絡なんてとることもないのにLINEだってインスタだって繋がったまま。無駄だとわかっていても、思い返したくても、写真も履歴も全部消し去ってしまった。唯一、高校の集合写真にあなたがいるだけ。どこに行ったのか、何をしているのか、知らないまま別れてしまった。今さら知ったところで何になるわけでもない、ただの好奇心と興味だ。

未練と少しばかりの情のような恋愛感情は、実家に置いてきたはずなのに、見ないように、触れないようにしてきたはずなのに。蓋の隙間から漏れ出るようにじわじわと溢れて。「もしかしたら」とありもしない未来を考えてしまう。今の恋愛の方が絶対充実しているし悩むことなんてないのに、初恋の熱に浮かされた当時の自分が「まだ」と縋っている。なんて幼いんだろうと自分でも思う。

思い出は美化されやがて綺麗な部分しか見えなくなる。たとえ今の自分に影響が及んでいようとも。静まり返ったあなた部屋でした寝起きのキスとか、夏の暑い日の帰り道にもらったレモンハーブの飴とか、そういうことしか思い出せない。なんて都合のいい女!

いつか、後ろ髪を引かれることのなくなるその日まで生活を共にしていく。思い出のあなたと。

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