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2023/6/29


 おとといにふと昔おうちにいた猫のこと思い出した。

小学校低学年の頃、父親が会社の近くにいた猫をお迎えする形で我が家にやってきた。

 名前は凛。父親が私につけたかった名前を猫におくることになった。凛ちゃんは野良猫の赤ちゃんで、目に怪我をしてた。

 我が家はマンションで狭く、スペースが残ってたのは私の部屋だけ。自分の勉強机のよこに凛ちゃんの拠点が設けられた。

 凛ちゃんがくるまで、動物と触れ合う習慣なんて全然なかったもんだから、最初は怖かった。
目が合うと飛んでくるなんて聞いてない。
背中に飛んでくるしランドセルで爪とぎされるし大変。
 でもほんっっっっとうに愛おしくて母親の携帯電話で何枚も写メを撮って、ゲージの外からもずっと眺めてた記憶がある。
 

 でも、1年も経たないうちに凛ちゃんは父親の会社へ戻ることになった。


気づいてなかったけど、兄が凛ちゃんに手をあげていたから。

自分が兄のストレス発散の矛先だったから、まさか凛ちゃんも……なんてことはちっとも想像もしてなかった。
親の会話から察して、幼いながらにも致し方のないことかと納得した。


 凛ちゃんとお別れになる前、自分が兄に怯えていたとき、初めて声を出して凛ちゃんに話しかけた記憶がある。
 人間以外の動物に、自分の気持ちを本気で訴えかけたのは、人生でこれが最初で最後だと思う。


凛ちゃんは我が家を離れた後、父の会社の近くの道路で轢かれて死んだ。

それを父から聞いたのはおばあちゃんの家だった。父の前では、ふーんと答えたような気がする。

おばあちゃんに「泣かなくてえらいね」みたいなこと言われた気がするけど、悲しいとかそういう単純な気持ちではなかった。
よくわからないけど、その日の夜に布団の中、ひとりで泣いた。


一対一で凛ちゃんに話しかけたことをこの先何回も振り返るだろう。

当時の私の祈りであり、拠り所であり、一緒に生きたい命だった。
家の中で私と凛ちゃんが対等だった。

これも自分を構成する大事な要素で、動物と向き合う中で捨てたくない記憶だと思う。

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