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テリー・ケイ著「白い犬とワルツを」ブックレビュー:2024年11月15日付け「日高新報」掲載

 JR津田沼駅前の書店で1冊の本がよく売れていた。新潮文庫の「白い犬とワルツを」である。不思議に感じた新潮社は販売促進員をその書店に向かわせた。
 その文庫本は入口の棚に平積みされていた。それだけではどこの書店とも同じであったが、違っていたのは、本の横に書店員の手書きのポップ広告があったことである。そこには、「妻を亡くした老人の前に表れた白い犬。この犬の姿は老人にしか見えなかった。何度読み返しても肌が粟立つ大人の童話だ」と書かれていた。店内の客の様子を窺うと、多くの客がこのポップ広告の前に立ち止まり、しばらく本をパラパラめくった後に本を持ってレジへと向かったのである。新潮社はこの手書きのポップ広告に着目し、これを全国展開することにした。それから半年後、「白犬とワルツを」は100万部を超える大ベストセラー(現在は累計180万部)となったのである。

 きょう妻が死んだ。結婚生活50年、幸せだった。
 この物語のすべてはこの1行から始まる。
 妻が亡くなってから1週間後、1頭の白い犬がサムの前にあらわれた。しかしこの犬はサムにしか見えなかった。
 サムは81歳。歩行器がなければ歩けなかった。この歩行器に犬は前足をひっかけてサムと一緒に歩いた。まるでダンスをするように。
 サムも1年後癌に侵され亡くなった。
 サムがあとわずかとなったとき、白い犬はいつのまにかいなくなっていた。
 子供たちはサムを妻の墓の隣に埋葬した。しかし、そこには小さな犬の足跡が幾つもついていたのである。
 これは大人のメルヘンに違いない。

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