第4回官能句会作品集~テーマ「雪」
「さっぽろ俳句倶楽部」にて、不定期開催中の「官能句会」。
「俳句」という形式に「官能」というテーマが溶け合うかどうか……冒険の意味合いも込めて、毎回自由に楽しみながら句会をしています。少しずつ参加者も増え、句のバリエーションも広がり読み応えもある句会に成長しているのは、主催者として嬉しい限り。
まじめな選評だけでなく、「妄想読み」も歓迎!とあえて伝えましたら、こんなご感想もいただきました。
「選」や「選評」にいわゆる「正解」はないのですが、普通の(?)句会でも意外と「的外れだったら恥ずかしい」と、選評を述べることへの心理的ハードルを持つ方もいるようです。「先生(私)と同じ句を選びたい」と言われて戸惑ったことも💦
確かに、経験を積むと読みが深くなり、より俳句的な骨法に基づいた判断をできるようになるということはあるかもしれません。ただ、それによって読み落とすものも一方であるかもしれません。
私の選が「絶対」ということはありませんし、他の方の選評を読んで、私自身が「そいいう鑑賞もありか。読みきれてなかった」と思うことも多々あります。また、選んでいなくても、心に留まった、引っかかった句というのもあります。
そういうわけで、この句会報は外部の方に「さっぽろ俳句倶楽部」の活動をご紹介するだけでなく、大切な句会を振り返る意味も込めて大切に書いています。
前段が長くなりましたが・・・
今回は「雪」をテーマにした1句ほか、自由に1句ということで投句してもらいました。
高点句、注目句を挙げます。
最初の男間違えてから根雪 月波
甘噛みの跡錆びてゆく冬林檎 優理子
後朝の眼のみを残す雪兎 すずめ
溶けながら僕を沈めてゆく深雪 八日きりん
内腿にオリオンの痣霜雫 シルマ☆
ポインセチア数えきれないほどのキス 千秋
トランプはうはの空なる掘炬燵 正則
きれいにもてあそんでゆきへすててね 探花
普段以上に、「物語」を感じさせる句が多かったように思います。「冬で官能というと痛々しさがつきもの」と、とある句評にありましたが、確かにほかの季節よりも、ひりひり感が増す設定になりやすいかもしれません。
純白で儚い雪のイメージの活用、透徹な冬の空気感を漂わせたり、寒さの中でこそ感じる「ぬくもり」に焦点を当てたり。「官能」と言っても、「性の場面」を直接詠むのではなく、象徴として語ったり言外に「性の匂い」を漂わせるほうが鑑賞者の「読み」を膨らませたるというのは、回を重ねるごとに明らかになってくる傾向のようです。
「妄想読み」も交えつつ、1句ずつ鑑賞していきます。
1句目。「最初の男」を「間違え」て以後の「根雪」は、自虐の中の自愛も感じらる季語選択になっています。溶けきらずに、次の春まで上塗りを重ねていく北国の雪。身体の中を通っていった「最初の男以後の記憶」の象徴とも取れるでしょうか。でも深刻にならない俳味を感じさせる仕上がりになっているのがお手柄。作者がわかると、すすきのを舞台にした恋模様かなと想像が膨らみます。
2句目の「甘噛み」は自句なので控えめに自解しますが、気持ちとしては「跡」の後ろに切れが入る感じです。低温貯蔵された冬林檎が、甘噛みという微温に出会った後の様子を、男女の戯れに重ねて読んでいただければ(笑)
3句目は、「眼のみを残す雪兎」の発見はそれほど目新しくはないかもしれませんが「後朝」と取り合わせられることによって、一気に王朝恋物語のような色彩を纏う句となりました。愛する人と抱き合い溶け合った幸せな時間、残った「眼」には逢瀬の余韻と同時に、別れの寂しさと次の逢瀬までの心もとなさを宿しているかのようです。雪上に残された眼(たぶん、赤い実)の映像がくっきり浮かぶのも強みです。
4句目は仕掛けの面白い句です。「官能読み」でなければ、雪深い中を暮らす「僕」の雪との格闘と読めなくもありません。けれども、「官能」のフィールドで読むとなると、男女のまぐわいそのものへと誘われます。いわゆる快楽の「沼」感。また「深雪」が女性の名前にも読めるという鑑賞もあり、なるほどと思わされました。中には、あだち充の『みゆき』を彷彿した方もいたようで・・・(笑)「戦略」があったかもしれませんが、それがいやらしくない感じで溶け込んでいるのが勝因でしょうか。
5句目は冒頭からドキッとする入り方の句です。内腿という体温を感じさせるワードから「オリオンの痣」という怜悧で気高い気配を纏う言葉へ。この展開に詩情が宿ります。
さて、問題は「視点」がどこにあるかということ。「内腿を見たお相手」なのか、作中主体が自身を見つめ直している句なのか。個人的には、後者のほうがより心理的な屈折も出て、よりその痣の美しさが際立つように感じました。
6句目は実に素直な「恋句」と読みました(エロス成分低め・笑)。恋人同士が初めて迎えるクリスマスのイメージです。ポインセチアの鮮やかな色彩から、数えきれないほどのキスを交わす動きの躍動感へ。周辺の景を消すことで、恋人同士の盲目ぶり、愛の喜びへの没頭がぐいぐい伝わってきます。
7句目は、「なぜ『うはの空』なの?」という謎と「掘炬燵」の取り合わせの謎と、ふたつの謎が掛け合わさっている余白の多い句です。そこをわからないと取るか、「読み」で埋めていくか・・・が評価の分かれ目となるでしょうか。「官能句」という文脈から読んでいくと、視覚化されていない「掘炬燵」の中身が妄想を誘うという点で惹かれた句です。特選で採った方は「掘炬燵」を指して「ブラックボックスの中で何が行われているか、ぐいぐい詮索に引き込まれる」と評していらっしゃいました(笑)
8句目はすべて平仮名表記かつ発話的な口語で書くことによって、内容の「過激さ」「過剰さ」がメルヘンへと転化され、独自の世界観を表出している句です。「もてあそぶ」のに「きれいに」と但し書きをつけたり、「すてる」のに「ゆきへ」と指定したりする美意識は、「性」だけでなく「生」というエロスにも通じる作者の願いなのかもしれません。
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普段は、真面目(?)な一般的なオンライン句会や吟行句会をしている「さっぽろ俳句倶楽部」ですが、半年に一回くらい、イベント的に「官能句会」を開催して、普段とは違うアンテナを立て、感性のスイッチを入れ直しています。
どなたでも参加自由ですので、気になる方はこちらからお問合せどうぞ。次回の夏雲システム活用の通常句会は令和6年2月開催の予定です。(Twitter @yurikoseto でも告知しています)
過去3回の開催分の俳句&鑑賞については、下記の記事をご覧ください。
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