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「だから」の意外な使い方。読み手・聞き手の心をグッと摑む、接続詞の魔法。



「Web文章では、不要な接続詞は省け」
「接続詞の多い文章は下手な証拠」
「文章がまどろっこしくなって読みにくい」


というのが『一般的な』ルール・解釈になっています。


でも。


接続詞は使い方、使うタイミングによっては、読者の心にものすごいインパクトを残す効果があり、それを知っておくと表現の幅がグンと広がります。


以前、「秀逸!」と感じた「接続詞使い」があったので、ご紹介しますね。発話者は日本ハムファイターズの稲葉篤紀選手、引退セレモニー会見の場ででした。


接続詞があるから、「おや?」と立ち止まる

レギュラーシーズン最終試合にフル出場して、残念ながら三打席ノーヒットに終わった稲葉選手。それでも、最終打席では、あわや…という鋭い当たりを見せ、球場のファンを湧かせました。結果はセンターフライ。

当然、試合後のインタビュー・談話では、「最後の打席は惜しかったですね」という話になります。そこで稲葉選手の放った一言が、最高でした。

「だから、辞めるんです」


話を振った方からすれば、「これだけ打てるんだから、まだ現役でやれるのでは?」という文脈でインタビューをしているわけです。ファンの方がそう期待していることは、稲葉選手も十分承知しているはず。


この場合、ファンの期待を否定する「逆説」で会話がつながっていくのが一般的な流れでしょう。「でも、ヒットになりませんでしたからね。力不足です」のように。


それが、「だから……」と来たから、「おや?」と思うのです。


文法的に解説すれば、「だから」は「前の事柄の結果として後の事柄が起こることを示す」接続詞。聞いている(読んでいる)側からすれば、「『惜しい当たりを打てる力があるから、引退する』。それって、どういうこと?」と、一気に稲葉選手の心の内を知りたいと思う気持ちが高まるわけです。


その後に、稲葉選手が続けた言葉は、こうでした。


「手応えは結構あったんですけど、まあフェンスまで行くかなと思ったんですけど、あそこで捕られている時点で引退を決断して正解だなって思いました」


稲葉篤紀という野球選手の「美学」が、見えてくる一言ですよね。スポーツ選手は、ある年齢が来れば肉体の老化と戦う宿命にあります。そこで、どう引き際を判断するか。チームプレーであるからこそ、若手のためにポジションを開けなければという責任感もあったようです。

「引退を決断して良かった」と爽やかな笑顔で言う稲葉選手に、ファンはますます「惜しい!」という思いを強くしたことと思います。


■あえての「原則破り」が、話に引き込むコツ!

読解力の「基礎」は、次にくる文章を予測できる力と言われます。文と文、段落と段落のつながりを、より早くより正確にとらえることができる人ほど「読解力」に優れていると判定されるからです。


この「推測」の手がかりとなるのが「接続詞」。学生時代、現代文の授業や参考書で、「接続詞」に注目して読みましょうと学んだ方も多いのではないでしょうか。

ある接続詞が文頭に置かれると、その後に来る文章のパターンが決まります。だから、接続詞に注目すると、文脈を素早く正しく理解することも可能になるのです。

しかし、この「原則」を逆手にとり、あえてイレギュラーな使い方をすると、接続詞をアクセントにして、読み手(聞き手)を文章(会話)に引き込むことが可能になります。稲葉選手の例のように、です。

夕べはよく寝た。だから今朝はすっきり目が覚めた。

というのは、一般的な使い方。「そうだよね」とスムーズに読むことができます。特別何か感情を刺激されたり、引き込まれることはありません。

これを、

この商品は、他の製品より安い。だから買わないのです。
ここは環境が良い。だから子育てに向かないのです。

と言われたら、どうでしょうか?「えっ?どうして?」と理由を知りたくならないでしょうか。


読者の予測を裏切る「文脈」を作り出して注目させ、その後自分の意見や思いを述べる。そうすることで、あなたが本当に言いたかったことが、よりインパクトを持って読者に伝わるのです。


もちろん、その先に続く「理由」「意見」「思い」の部分を、きちんと説得力ある内容で書き上げる力量は必要ですけどね(笑)


ワンランク上の「接続詞使い」をマスターすれば、稲葉選手のようにファンをどんどん増やしていくことも可能と覚えておくと良いと思います。

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