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ほほえみと驚きに満たされて~金子敦第6句集『シーグラス』を読む


Facebook友達の俳人・金子敦さんがこのたび第6句集『シーグラス』を上梓された。シーグラスとは、海岸などで見つけることのできるガラス片のこと。波に揉まれて角の取れた色とりどりの小片で、曇りガラスのような風合いを呈するものを指す。

シーグラスではないけれど、家にあったパワーストーンもどきをコーディネートして写真を撮影。表紙も帯も、とても素敵な夏らしい色合い、風合いで手に持つだけでもテンションが上がる句集だ。

シーグラス

前作『音符』(第五句集)の刊行が2017年なので、4年で新句集上梓という順調さ(私も何を隠そう同年に第一句集刊行しましたが、第二句集はまだまだ出せませんvv)。著者のあとがきによると、2021年から使用される中学校国語教科書『新しい国語』に「新緑の光を弾く譜面台」が採用されるのを機にまとめたとのこと。2016年~2010年までの作品を制作年次の編年体で章を分けという構成になっている。

とにかく、読んでいて「楽しい」句集である。それは、作者自身が「自由に楽しく句作」をモットーにされているからだろう。楽しくはともかく、「自由に」は、なかなか難しい。とくに、句歴を重ねてくると、へたな「知恵」がついてしまって、気づかないうちに自分で自分を縛ってしまい、あとから作品を読み返して愕然とすることも(汗)

でも、金子さんの俳句からは、とっても純粋無垢な目で、世界を驚きに満ちた目で眺めているのを感じる。濁っていないんですね。でも、透明というわけではなく、いい具合に「風合い」を帯びている。まさに「シーグラス」というタイトルがぴったりなのだ。

句集より、共鳴句、好きな句を挙げさせていただく。

エプロンのやうな木漏れ日小鳥来る
刈田より見ゆる剃刀ほどの海
バトンパスのやうにバナナを渡しけり


直喩や見立ての句の、ハッとする新鮮さ。こんなふうに木漏れ日や海やバナナを詠めるなんて!

如月や一番星に薄荷の香
流星や分数にある水平線

予想もしなかったところに連れて行ってくれる句。飛び方が巧い。

げんこつで笑窪を作り雪だるま
ばんばんと背中叩かれ更衣
ひざまづき挿してもらひぬ赤い羽根

これらは「ほっこり」系。あたたかく、やさしい気持ちになれる。

好きな具のまだ見えてこぬおでん鍋
朧夜にラー油を少し足してみる
ドーナツも薬のひとつ春の風邪

「スイーツ王子」と言われる金子さん。食べ物句の中では、上記のようなちょっととぼけた味わいの句が印象的だった。

白桃の香の移りたる一筆箋
白鳥も白鳥守も白き息

緊張感を保ちつつも、ほのかな色気と温かさを漂わせる、その絶妙なバランスが美しく、琴線に触れてくる。

最後に、集中もっとも印象的だった句を。

おのづから水葬となる海月かな

物哀しさも漂っていいはずの景なのに、余計な抒情を排してとても穏やか。世界に寄り添いつつも、「おのづから」という意志があるから埋没しない。無理なく、でも確かな「自分色」を発光させて、世界と一体化していく。金子俳句の魅力そのものを、この句は暗示していると言えるかもしれない。



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