2021年さっぽろ俳句倶楽部俳句コンテスト~入賞作品一覧
先日、開催した「さっぽろ俳句倶楽部」主催の「俳句コンテスト」。
これまで、講座、句会(対面・ZOOM・夏雲システム)、吟行など、さまざまな形で俳句を学び楽しむ「オトナの部活」として活動してきましたが、初めての試みとして小規模ながら顕彰事業を行ないました。
5句連作でタイトルを付けて応募するスタイル。5句という言語空間の中で、頭を悩ませつつも、ご自身なりの世界観をめいっぱい表現する体験を楽しんでもらえたらいいなという意図からの企画でした。
また、顕彰は私が選ぶ賞だけでなく、参加者全員での互選で選ぶ賞、いつも講座開催のサポートをしてくれるコワーキングSALOON札幌の店長emicoさんが選ぶ賞と、さまざまな視点から作品を鑑賞・評価し合うするスタイルを取りました。自分一人では到達できなかった「読み」や「俳句の可能性」を、参加者全員(主催側も含めて)で受け取りたいと考えたからです。
以上のような趣旨でエントリー作品を応募したところ、句歴の浅い方からウン十年のベテランまで、20作品が集まりました。「さっぽろ俳句倶楽部」と称していますが、部員は全国にいますので、応募者の地域もバラエティに富んでいます。
そのような中から、見事、入賞した作品を以下に掲載、ご紹介しますので、ぜひご一読ください。
最優秀作品「天狼賞」
「悴む臓器」(昼顔)
花満ちて秘かに硬くなる臓器
炎天に視野の片隅焦がしをり
鵙の贄生身の爪の反り返る
吾の管に行き止まりなし去年今年
エコー画面に悴む臓器見え隠れ
★講評
時にヒリヒリと突き刺すように、時に慈愛をもって、自身の肉体を見つめる透徹した眼差し。即物的に身体を捉えつつも、臓器が意志を持ち、臓器を宿す人の体温を感じる作品になっているのは、詠みたい景をいったん自身の中に取り込んで深く沈めてから言語化しているからだろう。
1句目では、秘かに感じる存在だった「臓器」が、最後に「見え隠れ」と存在をあらわにする構成も巧い。「硬くなる」「焦がし」「反り返る」「行き止まり」「悴む」など強い言葉を用いつつも、それらが一句の中で浮くことなく十七音の中で有効に働いているのは、季語との調和の妙。俳句の器を最大限に生かし、迫力と説得力を湛えた句群であった。(瀬戸)
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入賞作品より
准賞
「そこに在る」(勲)
フロントガラスに蝶いつもいて別れ道
白壁の羽化に立ち会う夏の朝
★講評
実景から詩的飛躍を遂げ、物語性を帯びた世界へ読者を誘い込むことに成功している句に注目。「別れ道」「羽化」などが重層的な意味を持ち、表現された以上の世界を読み手の記憶から引き出す魅力がある。(瀬戸)
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佳作
「夢想」(和弘)
散るダリア確信的なスキャンダル
ぽつり星生まれし宇宙ソーダ水
★講評
いい意味で「俳句ずれ」していない言葉遣いが瑞々しい光を放っていた。「散るダリア」「ぽつり星」など、あえて導入のリズムにどっしりとした安定感をつくらないことで、何気ない言葉が焦燥感や孤独感を纏い、陰影を帯びた句の世界を見せて味わい深い。(瀬戸)
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「溢れる」(すずめ)
※互選最高得点「南天賞」なので、下記に全句掲載
★講評
タイトルに冠した「溢れる」の語を直接使用した句はないが、五句を読み終えた時に、静かに「溢れる」何かを感じ取ることができる句群。その象徴の手腕の確かさ。俳句は省略の文芸であるが、言語化の過程では捕まえきれず、収まりきらない「溢れ」出る何かを体感しながら格闘する。「過剰」と「欠乏」、その間で揺れ動きつつ、二物衝撃で「第三の世界」を現出させようとする挑戦的な俳句にぞくぞくした。(瀬戸)
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審査員特別賞
「秋日」(小町)
朝帰る居間に佇む秋薔薇
新蕎麦を啜る父への供養かな
山紅葉何か忘れているようで
理由もなく途中下車する秋の暮
十三夜言いたいことは闇の中
★講評
今日のお昼ごはんがコッペパンだった…というわけでもないのですが。秋のある日に頭の中を行き来した思考を1句目5句目とでサンドしたような、具の部分を隠した感じの並びに惹かれました。
秋の清々しさの描写からの、どこか感じるうら寂しさ。その理由を探す言葉の旅。自分の脳内、潜在意識の中に恐る恐るダイブを試みるような思考の流れ。真面目に率直に理由を求める探求ではなく、遊びながら片手間に、いつも答え合わせをしようとするたくらみ。そして、最後は、自ら探すことをやめ、闇の中に葬ったことにする。
あくまでも、読者である私たちを煙にまくような終わり方で、本人は全く闇の中に押し込んだわけじゃないでしょ。そんなストーリーにして詠み、またバラの花を思い出す。心のざわざわを受け取りきらない、大人のたしなみとして、感情との距離のとり方が絶妙!
5句の並びの「妙」にじわじわと虜にされました。(emico)
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互選最高得点「南天賞」
「溢れる」(すずめ)
虫の夜に黒の靴下ばかりある
揺り椅子は時の落とし子月鈴子
毛穴より電波の漏るる星月夜
血液が零れ小鳥に会いたがる
月光を花瓶に吾の七七日
★選評抜粋
くつ下、毛穴、血液など肉感的な息づき、湿度を感じる単語が無機質に淡々と存在する時空に包まれ、一枚の絵画のように融合して見えた。とくに、1句目と3句目が、皮膚感覚が刺激され、好きである。(たかこ)
この五句にある世界に何が溢れているのか?一つ一つの句では感じませんが、五句の世界の中に官能的なものも感じで魅力的だと思います。(和弘)
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互選2位
「悴む臓器」(昼顔)
※最優秀作品「天狼賞」として全句掲載。
★選評抜粋
全体を通して表現されている「生の身体の恐ろしさ」に圧倒されました。 特に三句目の「鵙の贄生身の爪の反り返る」は、季語に対してのアプローチがぴたりと合っている佳句だと思います。 五句を通しても、決して仰々しい言葉の連打ではなく、平易でありながらも読み手を立ち止まらせる力を持った句群でした。(航路)
「悴む」臓器という取り合わせからして、インパクトがあるのだが、5つの句全体よりストレートにではなく、「漂ってくる」苦しさに打たれた。(勲)
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互選3位
「こくはく」(佳子)
「逢いたい」が沸点となる立夏かな
青嵐やシヤドウボクシングの少女
★選評抜粋
新しい感覚の句。破調も小気味よく詠み込む勢いが心地好い。(祐)
5句に恋愛の様々な場面が詠み込まれ、久しぶりに青春時代が甦った。(一路)
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推薦10句選(作品番号順)
虫の音に黒の靴下ばかりある(「溢れる」/すずめ)
青嵐やシャドウボクシングの少女(「こくはく」/佳子)
燿変の零るるままに天の川(「宇宙」/一路)
花満ちて秘かに硬くなる臓器(「悴む臓器」/昼顔)
賽子の一の目燃えて狐火に(「狐日和」/眞紅)
獏となり君を咀嚼す十三夜(「寒北斗」/祐)
白壁の羽化に立ち会う夏の朝(「そこに在る」/勲)
散るダリア確信的なスキャンダル(「夢想」/和弘)
誰も彼も秋刀魚の背骨弔わず(「秋刀魚哀歌」/ぶんじ)
手袋を脱ぎ二人目の馬鹿となる(「二人目の馬鹿」/航路)
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選評賞「六花賞」
本当はでこぼこだもの月の声(「円か」/たかこ)の鑑賞
月の声とはどんな声だろう。まず魅力を感じたのはそこだ。掲句を含む5句の世界観はカップルか、夫婦と思った。ならば「月」は女性だろうか。はたまた「心の声」だろうか。とてもくすぐられる。措辞の「本当はでこぼこだもの」も実際の月の声とも思う。「でこぼこ」が「長所短所」と感じた。一長一短があるよね、だから一緒にいてね、という心の声に感じた。繊細さに感動した。(紀宣)
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