【小説】私の明日はどっちだ?4-②
おばさん世代の転職活動はいばらの道。手持ちの駒もスカスカで、さあどうする!
出勤第一日目
今朝は、あまりの蒸し暑さに早々と目が覚めてしまった。
昨日はいろいろ考えて遅くまで眠れなかった(と思っていたのにいつのまにか寝ていた)。ここに決めていいのか、自分にできる仕事があるのか、待遇とかで失敗しないか…何となく流れで決めてしまったけれど、本当にこれでよかったのか。…暑い!
二度寝したらきっと遅刻してしまう。なんと昨日の今日で、9時には出勤だ。今は5時半。つらい。でも、暑い…。
起きよう。
今日はまず時間通りに行くこと。そしてみんなが何をやってるのか冷静に見よう。それだけで、よしとしよう。
時間だけはあるから、ご飯を炊いてみる。そうしたら、お味噌汁もあったらいいじゃないか、魚や卵焼きもほしいじゃないかとなって、妙に豪勢な朝食が出来上がった。
寝不足だったのにすっかり食べて、無駄に調子がいい。やりたいことができるとか好待遇だとか、これまでのようにわかりやすいモチベーションは全くない。こんなの初めてだ。それでも私は出かけていこうとしている。確かなのは、何となく自分が嫌な感じがしていない、という感覚だけだ。
会社(?)まで、自転車なら20分ほどで行けるだろう。余裕をもって8時過ぎに出て、早過ぎたら近くで時間調整すればいい。周りが公園みたいになっているのはありがたかった。
外は、暑いのと湿度の高さでもわっとしていた。やる気が出るというより、暑さにせかされて無理やり動いている気がする。自転車をこいでいるうちはいいが、着いたら汗だくだなと思いながら、出勤第一日目はスタートした。
それでも、晴れていればやっぱり外はいい。朝からこんな気分でいられるなんてしあわせだ。今までは前の日の仕事のあれこれがずっと頭から離れなくて、いつも何かしら考えていたっけ…。朝食がパワーになってくれたのか、ビュンビュンこいでも全然平気だった。
正面から全身で受ける風は気持ちがいい。信号で止まるたびに、今度はもっと速く、と思いっきりこいでこいでビュンビュンこいで、わあもう着いちゃったじゃない、と弾んでいたら突然がくんと車輪がはまり、見えるはずのない地面の小さい石とその次に白い雲、そして目の前の景色が急にスローモーションで映し出され、私は世界の一部になった。最後に大きな石が視界に入った。
ぶつかる!
と思った瞬間、頭の上から白い何かが飛んできた。
私は顔面からその白いものに突っ込み、続いて体ごと地面の草の上を滑っていった。
ジョギングの途中だったおばさんが、びっくりして声を上げた。
「ちょっと、大丈夫!?」
どんどん人が集まってきて、遠くの方で「なんだなんだ」「事故か?」「誰か救急車!」とか言っているのが聞こえたような気がした。その後、私の記憶は真っ白になった。
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「あ、気がついた!先生呼んで来て!気がついた、あーよかった。よかったあ…」
「あの…」
「薮田さん、しゃべらなくていいから。もう大丈夫だからね、大丈夫だから。」ニワカさんが涙声でうなづいている。
「あの、私…」
「自転車でひっくり返ったのよ。頭とか打ってないか、検査いっぱいしたんだよ。吐き気とかない?」
「ええと…わからない…」
「そうかそうか、とにかくゆっくり休んで。何も心配しなくていいから。顔ケガしなくて、本当によかった」
「はあ」
はあ、と言うのが精いっぱいだった。そこはたぶん病院で、病室のベッドの上だった。と思う。体のあちこちが痛くて、自分の体じゃないみたいだ。昨日あまり寝ていなかったせいか、ニワカさんの姿がだんだん薄くなって、周りの声も遠くなって、私はいつの間にかぐっすり眠ってしまった。