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【roots】青年期 《22章》種をまく人
街から離れて森に住み出して1か月
明日にはルビーも仕事を辞めて森に来てくれることになった。
オーウェンとリリーの家もタイラーが建ててくれることになり半年後にはこちらに移って来る。
今日はこの森で1人で過ごす最後の日。散歩にでた。
そんなに深くない森で明るい日差しが注ぐ。
気持ちの良い風が吹き抜ける。
ゆっくり歩いて湖まで来た。
澄んだ水かキラキラと輝いて見ているだけで笑顔になった。
砂地に座って空を見上げた。
小さな雲と青い空。静かで長閑で平和だ。
釣竿を垂らした老人がこちらを見たので立ち上がって近づいた。
「こんにちは。この森にお住まいなんですか?」と僕が聞くと
「やぁ、こんにちは。まぁ座って」とおじいさんは釣竿の先を見たまま答えた。
僕は隣に座って「釣れます?」と聞いた。
「釣れないよ。針をつけてないからね」おじいさんは嬉しそうに答えた。
「それは、良い時間ですね」
「ここに住んでるのかい?」と聞いてくれた。
「僕は先月からです。少し行った所にある小さな家に住んでます」
「こんな所になんでまた」おじいさんは湖面を見たまま言った。
「ここは静かで美しいです」
「そうかい」嬉しそうにしてくれた。
「僕は…僕は誰かを守ることが出来たのかな?」
「立派に守ってたじゃないか」
「巡り巡って自分を守る事になるんだよね」
「そう教えただろ。デイビッド」
「名前知ってたの?」
「デイブは有名人だ。俺の自慢の友達だからな」
「ずっと、ずっとさ、ディランはどこにいるのかなって会えるのを楽しみに待ってた。きっと僕がディランに教えてもらった事を大事にした時に…会えるって信じてたよ」
そう、このおじいさんは鯨のディラン。
どんな小さな命も守らなければいけないと。名も知らない誰かを守る事が自分を守る事になると教えてくれた。
「あれからずっと。僕も誰かを守れる存在になりたいと思ってたんだ」
「それでちゃんと守ったんだな。頑張ったな」
「ありがとう」ディランに褒められて自分が誇らしくなった。
「あの時に見た美しい星空と水の中のキラキラした魚たち…覚えてるよ」と僕が言うとディランも
「楽しい晩だったな」と微笑んだ。
「あれから、本当に長い旅になったよ」
「良い旅だったか?」
そう聞かれて、僕は少し考えて
「大変だった。本当に」と笑った。
「子どもでも大人でも生きるって大変なんだ。じいさんになっても大変さ」
「そうなんだ!」2人で顔を見合わせて笑った。
「でも、その分。手にした物は多かったろ?」
「そうだね。誰とも関わらずに1人きりだったらこんな風に思えなかった」
「大切な思い出が多いのは良いことさ。良い手をしてる」ディランは僕のやけどの跡がまだ残る手を取って両手でさすってくれた。
「ちゃんと治療をしそびれて。でも気に入ってるよ」「そうか」愛おしそうに握ってくれた。
「前に話した、助けてくれる友達もこの森に越してくるんだ。ディランに紹介するよ」
「それは嬉しいね」ニッコリと笑いあった。
「僕はもう静かに暮らしたいんだ。それが性に合ってる」
「そうか。自分らしく生きるようにするのが1番さ」
「針をつけずに釣りをしたりね」
「そうだよ。したいように。幸せだと思うようにするんだ。俺はこうして魚たちと会話をする時間が1番の幸せなんだよ」
ディランの言葉は心を温かくしてくれる。
「前からさ、そうだったよね。そうやってそっと優しい種をまくんだ。それで大切に見守ってくれる。僕もそういう人になりたい」
「褒めてくれるね、ありがとう。デイブはなれるさ」と僕を真っ直ぐ見て言ってくれた。
嬉しかったけど。
「僕は…いつ戻る事になるかわからない旅だから…人とは…」とうつむいた。
「そんなことをいつも考えてるのか?」
肩をぽんと叩かれた。
「いつだって、今どうするのか。しておけば良かったなんて思わないようにするだけの事さ」
「うん…」
「それだけさ。自分が幸せで後悔の無いように旅はするもんだ。いつも人の事を考えてばかりじゃ疲れるだろ?
だから森にいる。良い選択だ」
「うん」
「それで良い。また会えて俺は嬉しい」
ディランがしみじみと噛み締めるように言って肩を組んでくれた。
嬉しくて涙がにじんだ。
僕をわかってくれる。導いてくれる。
ディランの存在が胸に大きかったんだと深く感じた。
to be continue
今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀