ソクラテスは笑う。#9
第3章,生贄の子⑤
『俺は何故走っているんだ?!』
全速力で走りながら、カンサは困惑していた。少女が自分の意思で森へ帰ったのなら、自分は諦めるとそう覚悟していたはずである。自分は今頃、紅毛の男とホテルで荷物をまとめ、今後の事を考えなければならない。カンサの頭には、そんな言葉が流れていたが、カンサの胸には、強い憤りの感情がずっと自分を責め続けていた。
『何故、俺は予測出来なかったんだ!!』
少女を人里に連れて来た時点で、塔からの雷の事は、当然頭に入れておくべき重要事項であったはず。それが、あの惨劇を目の当たりにするまで、全く頭の中に無く、自分がこの世界に対して、完全に無防備であった事に、カンサは強い憤りを覚えていたのである。カンサの目には、今でも紅毛の男が市場で、少女を肩車していたあの光景が、焼き付いて離れなかった。
紅毛の男が少女を肩車していたあの時、男の目は遥か上空から、光の柱が落ちて来るのを捉えていた。光が地上に届くよりも早く、男は少女を肩から降ろし、胸に抱えて前屈みになり、両膝を着いて身体を丸め、少女の頭を自分の胸に押し付けて衝撃に備えていた。
紅毛の男の反応速度が遅ければ、2人は風圧で投げ出され、少女は2m以上の高さから、地面に叩き付けられていた。それでも少女は、雷の光と音に耐え切れず、事が納まり男が腕の力を緩めた瞬間、男の腕から抜け出し、森の方へと走り出したのだった。
『あいつは、森に帰ったぞ。』
人混みを抜け、その言葉を聞いたあの時、カンサは言葉も無く、ただ呆然と立ち尽くしていた。
雷が雨を呼んだのか、ポツポツと大粒の雨が落ち始めたかと思うと、突然ザッと激しい雨に変わった。雨に打たれ始めても、カンサは指1本動かせず、そこに立っていた。どこかでそんな気がしていた、人集りをかき分けながら、嫌な予感がカンサの胸を襲っていた。しかし、実際に紅毛の男の口からその事実を告げられた瞬間に、カンサの頭と身体は動きを止めてしまったのだった。紅毛の男は、しばらくカンサの正面に立っていたが、くるりと向きを変えてカンサに背を向けると、
「俺は、ホテルに帰るからな。」
男はそう言って、カンサの前から姿を消した。カンサはしばらくの間、そこ場に立ち尽くし、足先の地面を見つめていたが、グッと顔を上げたかと思うと、全速力で森に向かって走り出していた。
“人は、人の中で生きるべきだ。”
カンサは疑う事無く、少女に対してそれが最善であると思っていた。少女が群れの中で孤立しているのなら、それは尚更カンサの頭の中で確信に変わっていた。しかしその確信は、塔からの雷の直撃を受け、黒い塊に姿を変えた“人間”を見た時、カンサの心は大きくぐらついた。森にいても、少女に向かってくる雷を避ける事は出来ない、しかし森にいれば、他の人間に雷が落ちる光景を見なくて済むからである。
雷は“人間”にしか落ちない。例え孤独であっても、周囲に人間がいない環境であれば、あの惨劇を見なくて済むのである。少女は、生まれて初めて塔からの雷を目撃したのだった。自然の雷とは全く違う、おぞましいあの光を。カンサは、自分が人里に連れて来なければ、もしかしたらあの少女は、一生あの雷を、見ずに済んだかも知れないと思い、益々自責の念に駆られていた。
“人がいる環境で、人として生きる方が幸せだ。” そう言い切れなくなってしまった自分が、何故今森に向かって走っているのか、少女を見つけても、自分がどうしたいのかも分からないまま、カンサは走り続けていた。紅毛の男には負けたといっても、常人より遥かに速く走るカンサの足は、森の入り口辺りで、四つん這いで走っている少女の姿を見つける事が出来た。カンサは何も心に整理がつかないまま、ただ少女の姿だけを目で追って走った。
少女が森の中に入ると、間も無くカンサも森の中に入った。カンサは素早く視線を走らせ、少女の姿を探した。数メートル先の茂みの中で、フワフワと動く白い影を見つけた。雨の降る暗い森の中でも、少女の白い服は捉えやすかった。カンサも追って茂みの中へ入って行くと、右斜め前方から、何かが向かって来る気配を感じた。その気配は、真っ直ぐに少女のいる方向に向かっている。間も無く、深く暗い茂みの中を、大きな唸り声と共に、茂みの木々が大きく揺れる様子をカンサは目で捉えた。あの勢いなら、数十秒後には、前方を走る少女と鉢合わせる。
カンサは走りながら刀を抜いた。
森の中で、少女の着ている白とピンクの服は目立つ。今までの姿なら、闇や茂みに紛れて、化け物などと遭遇せずにやり過ごす事が出来たのだろうが、カンサは自分が服を与えたせいで、少女の身を危険に晒してしまったと、強く後悔した。
化け物は、唸り声を上げて向かって来る為、カンサは化け物の位置を特定する事が出来たが、小さい上に、四つん這いで走る少女の位置が掴めず、カンサはどう切り込むべきか悩んでいた。下手に切り込んで、少女を傷付けてしまう事は、絶対にあってはならないが、凄まじい勢いで、少女の方へ突っ込んで来る化け物に対して、判断が遅ければ少女は命を落としかねない。カンサが歯噛みをして走っていると、少女は化け物と遭遇した為か、驚いた様子で一度短く声を上げた。
「キッ!!」
声が上がった瞬間、カンサは上段に大きく振りかぶった刀を、茂みの中の闇に向かって振り下ろした。
カンサの闇を切った剣先は、正確に今まさに、少女に向かって振り下ろされた、化け物の左前足首を切り飛ばしていた。化け物が、周囲の空気を震わせる程の、大きな叫び声を上げると共に、カンサは茂みを抜け、少女の前に立ち、化け物に向かって刀を構えていた。
カンサの目の前にいたのは、全長6m程の哺乳類と思われる、化け物だった。四肢には鋭い鉤爪があり、2本の後ろ足で立ち上がっていた。目はギラギラと光り、血走っている。口からはボタボタと、絶えず唾液を滴し、鋭い牙が覗いていた。赤い月の影響なのか、突然変異の様に、異形の姿となった動物が、度々動物同士で喰い合いをするという情報を、カンサは地下で調査報告書を読んで知っていた。元は普通の動物だったものが、突然変異するのか、それともすでに、異形となって生まれて来るのか、そこまでは分からなかったが、情報によれば、ベースが草食系の動物的外見であっても、例外無く全て肉食であり、好戦的で目に留まった動物を攻撃し補食する、と書かれていた。カンサが持っている刀は、主にそうした化け物に対しての装備であった。
この獣も、後ろ足に比べて前足が長い事や、骨格の形、鉤爪の形状等から、カンサはナマケモノ科に近い動物だと判断したが、身体の大きさや、筋肉の大きさ、歯の形状からは、およそナマケモノとは程遠い生き物となっていた。本来草食であるはずの動物種が、今や完全に少女を“獲物”として捉えている事が、カンサには分かった。
化け物は叫び声を上げながら、左前足を失った為にバランスを崩し、右前足を地面に着いて四つん這いになった。化け物が姿勢を落とした瞬間、カンサは化け物の左側面から飛び上がり、化け物の肩を蹴って、更に高く飛び上がりながら、その勢いに乗って、前屈みになった化け物の頭蓋骨と背骨の繋ぎ目を狙って、刀を下方から振り上げた。
カンサと化け物の首は宙を舞い、カンサが地面に着地するとほぼ同時に、化け物の首は鈍い音を立てて、地面へと落ちた。少し間を置いて、首と切り離された胴体は、ゆっくりとバランスを崩し、カンサの左側からの攻撃の煽りを受け、そのまま右側へと、周りの木々をなぎ倒しながら倒れていった。
カンサは勢いよく下方に刀を振り、血振りをすると、上着のポケットから懐紙を取り出し、刀に付いた化け物の血と脂を、丁寧に拭い取った。カンサは下を向いたまま、黙って静かに納刀すると、ゆっくりと少女の方へと向き直った。少女は怯え、小さく震えていた。カンサは力無く、弱々しい笑顔で少女に囁いた。
「………俺は、化け物からは君を守ってやれる。……だが、それも一生君の傍にいて、ずっと守ってあげられるわけじゃない。……俺は、無責任だ。君の人生にズカズカと入り込んで、荒らし回ったのは、俺だ。本当に…………申し訳ない。」
震える少女より、泣きそうな顔をしていたのは、カンサの方だった。カンサは少女に近付いて、片膝を着くと、少女の目を見ながらゆっくりと言った。
「君は……森に帰った方がいい。例え、孤独であったとしても……。森の中で、この服は目立つ、また襲われたりしない様に、服を預からせて貰うよ。」
そう言って、カンサが少女の方へと手を伸ばすと、少女はカンサの手を振り払い、森の更に奥へと走り出した。
「待ってくれ!」
カンサは、少女の腕を掴もうとしたが、突然後ろへ姿勢をひねった事と、地面が雨でぬかるんでいた為に、カンサはバランスを崩し、少女の腕を捕らえ損ねた。地面に手を着いて、姿勢を立て直す間に、少女は更に暗い藪の中へと飛び込んで行った。カンサも直ぐに後を追ったが、雨は更に激しさを増し、暗い森の中で、殆ど視界は利かなくなっていた。森を熟知している少女は、あっという間に、気配すら感じなくなってしまい、カンサがいくら探しても、見つける事が出来なかった。
『あんな格好で森にいたら、また狙われてしまう……。』
カンサはそう思い、明日の朝少女の服を回収しに、森に行く事を決め、カンサは一度ホテルへ戻る事にした。
「なんだ、手ぶらか。ガキはどうした?」
ベッドの上でヘッドボードを背に、ルームサービスで夕食を摂っていた紅毛の男が、全身ずぶ濡れで帰ってきたカンサを見てそう言った。
「………俺は、お前の言う通り、偽善者面した……無責任野郎だった………。」
カンサは俯いたままそう呟くと、足早にバスルームへと向かって行った。紅毛の男は、無言でカンサの動きを目で追っていたが、バスルームに入ったカンサが、鞘から刀を抜いて、刀を洗い始めると、ベッドの上からバスルームに向かってカンサに話しかけた。
「お前、何か切ったのか?」
「……俺が着せた服のせいで、あの子が化け物に襲われた。俺が後を追っていなければ……死んでいただろう。あの子にとって、俺がやった事は………全て余計な事だった。」
力無く、弱々しい声で言いながら、カンサは刀の脂を綺麗に落とし、何枚も重ねたティッシュで水気を拭き取ると、上着から袋を取り出した。厳重に防水と防湿処置の施された特別な袋には、刀専用の布と油が入っていた。カンサが布で丁寧に何度も刀を拭き上げていると、またベッドの上の男の声がした。
「はぁ~ん、それで泣きべそかいて帰って来たってわけか。それで?諦めて明日出発か?」
「いや……彼女の服を回収する。あんな物を着て森にいたら、また化け物の的に……。」
油を何重にも塗り重ねながら、カンサはそう言いかけて、ピタリと動きを止めた。
「あ?何だ、どうした?」
紅毛の男の声に答えず、カンサは刀を見つめながら、眉間にしわを寄せて言った。
「見てるはずだ……この調査報告をした奴は、知っていたはず………。」
「何をだ?」
「………意図的に、地上の不利な情報しか、地下には知らせていないという事だ。地下は完全に情報操作されている……。化け物の調査報告をした奴は、必ず上の人間に見聞きした事を全て報告しているはずだ。地下の上層部の人間は、全て知っていたんだ。」
「おぉ、だから何をだ?」
「“人の存在”をだ。地上には、こんな化け物がいる。という調査報告書は、地下で山の様に読んで来た。今なら分かる、その調査員が、地上に来て人に会っていない訳がない。少し丘を昇れば、町が見つかるにも関わらずだぞ。」
「だろうな。森の奥にいる化け物より、人間に会う確率の方が高いだろうからな。」
カンサは、刀に油を塗り終え、納刀してパチンと金具の音をさせると、苦い表情を浮かべて言った。
「地上に人間は存在せず、化け物だらけの世界だと地下の人々に思わせる理由は何だ?一体、何の為の特殊調査なんだ?地下の狙いは塔の他に、何か別の目的があるはずだ。」
「それで?お前は地下に戻ったら、どうするつもりだ?ゾンビの親分を倒すのか?」
紅毛の男はニヤニヤと笑いながら、カンサに言った。カンサはバスルームから部屋に戻ると、眉を開いてキョトンとした表情で、紅毛の男を見ながら言った。
「俺?俺は、地下に戻るつもりなど最初から無い。地上に来た事も、上から命令されて来たわけじゃないんだ。地下では今頃、俺はお尋ね者だ。」
「へぇー、地下に戻るつもりがねぇって事は、地上で生きるって事か?」
紅毛の男は笑って言っていたが、目はカンサを見据え、その口調は念を押す様な響きがあった。カンサは男の目を見たまま、しばらく黙っていた。塔を自分の死に場所だとしている事を、男に話した事は無かった。
「……調査員といっても、要は軍人だ。俺は、地上に出て塔に行ければ、手段は何でも良かったんだ。俺は、塔で死ぬつもりでここ(地上)に来たんだ。」
「あ?」
紅毛の男はそう言って眉間にしわを寄せると、思いっきり首を傾げて見せた。
「塔で死ぬつもりだと?お前、復讐が目的じゃなかったか?」
紅毛の男はそう言いながら、身を起こしベッドの上であぐらをかくと、腕を組んで立ったままのカンサを見据えた。カンサも紅毛の男の正面に立ち、男の目を見ながら、しっかりと頷いて男に言った。
「そうだ、塔に対する復讐が俺の旅の目的だ。塔に何があるかは分からないが、あれだけのエネルギーを放出する“何か”はあるはずだ。………そして、そこを管理する“何者か”も。俺は、塔の“何か”を修復不可能レベルに、徹底的に破壊する事が目的だ。そして、“何者か”も……。今となってみれば、塔には地下の軍が絡んでる可能性もある、たぶん……俺は殺される事になるだろう。………それでいい、俺はその為に生きて来たんだ。」
「バカかお前は、ひとりで悦に入ってんじゃねぇ。俺は、お前と心中する気はねぇぞ。」
紅毛の男は腕を組んだまま、肩眉を上げてニヤリと笑って言った。
「お前は、好きな時に逃げればいい。お前なら、それが出来る。」
カンサの言葉に、男はバカにしたように、両眉を上げ、ハッと笑いながらカンサに言った。
「何で俺が、逃げなきゃならねぇんだ。大体、死ななかったらお前、どうするつもりだ?塔で首でもくくるのか?」
男の言葉に、カンサは呆気に取られた表情で言った。
「死なないなんて事が………。」
自分は塔で死ぬものと、そう思い込んでいたカンサは、言葉に詰まった。刀を持ったまま立ち尽くし、しばらく黙っていると、紅毛の男の表情が、面倒臭そうな色に変わり、溜め息と共に、あぐらをかいた足に肘をつき、拳に顎を乗せてカンサに言った。
「おい、迎えに行ってやれ。風邪ひかれたら面倒だ。」
「は?」
突然の、意味の分からない男の発言に、カンサは反射的に紅毛の男の顔を見ながら、間の抜けた返事をした。
「窓の外だ、見てみろ。」
男はそう言いながら、親指で窓の方を指さすと、ベッドの上にゴロンと仰向けになり、両手を頭の後ろで組むと、目を瞑った。カンサが男の指した、窓の外を見てみると、ホテルの入り口で白いワンピースを着た少女が、雨の中でウロウロと落ち着き無く動いているのが見えた。カンサは直ぐに出入り口の方へ向きを変え、走り出すと同時に腰に刀を差した。
「お前、何で分かったんだ?!」
カンサは男にそう言ったが、返事を聞くつもりは無く、次の瞬間にはバタンと勢いよく音を立てて、扉が閉まる音が部屋中に響いていた。
紅毛の男はその時、ただ黙って目を瞑っていた。
カンサは階段を飛ぶ様にして駆け降りながら、少女の元へ向かった。ホテルの入り口の扉が開くと、カンサは少女に駆け寄り、両手を広げて少女を抱きしめながら言った。
「よく、戻って来てくれた………。」
雨は小雨になっていたが、少女の身体は震えていた。少女はカンサに何の抵抗も見せず、大人しくカンサの腕の中にいた。
カンサはそのまま、少女を抱き上げると、ホテルの中へと入っていった。ロビーを抜け、階段を上がる時も、廊下を歩く間も、少女は震えるばかりでピクリとも動かないままだった。
カンサが少女を連れて部屋に入ると、紅毛の男は以前のまま、ベッドで仰向けに寝たまま目を瞑っていた。眠っている様子は無く、カンサはそのまま少女を抱いてバスルームへと向かった。
温かいお湯に浸けても、少女の震えは止まらず、少女の心が止まった様に、目は虚ろで、表情は何も感情を写し出してはいなかった。カンサは少女の様子を見て、少女の髪を洗いながら様々な事を考えていた。
『一体、何があったのだろう?本当にこの子の意思で戻って来たのだろうか?群れに帰れば、まだ母猿はいるはずだ。母猿がいるのに、ここに戻って来たりするだろうか?』
少女はカンサの思った通り、母猿のいる群れに帰っていた。しかし、少女からは母猿を認識出来るが、母猿の方からは、少女の姿がすっかり変わってしまっている上に、カンサが少女をお風呂に入れてしまったせいで、シャンプーやボディーソープの香りで、少女の匂いがかき消され、母猿は少女を認識する事が出来ず、少女は母猿から激しく威嚇され、群れを追い出されて来たのだった。
群れを追い出された少女は、他に頼れる所があるわけも無く、会って間もないながらに、いくらか心を開く事が出来た紅毛の男と、危ない所を助けて貰ったカンサの事も、少女の胸に残っており、2人の居た所に戻って来るより他に少女が生きる道は無かった。
カンサは少女の身体を洗い終えると、バスタオルでつつみ、髪をタオルで包むと、身体を優しく拭き上げ、下着とパジャマを着せると、少女を鏡の前に座らせ、タオルで軽く髪を拭いた後、ドライヤーで丁寧に乾かし始めた。少女は何をされていても反応は無く、ただ虚ろな目を床に投げるばかりであった。髪を乾かし終えて、カンサは少女を抱き上げると、部屋に戻りベッドに寝かせ、優しく布団を掛けた。少女は壁の方へ向いて横に丸くなると、黙ったまま瞳を閉じた。その様子を見ていたカンサは、隣のベッドにいる紅毛の男に話しかけた。
「一体、何があったんだろうな。母猿の元に帰ったら、俺は戻って来ないだろうと思ってたんだが…。」
紅毛の男は目を閉じたまま、カンサの言葉に返事をした。
「さぁな。何があったにしろ、こいつが選んでここに来た事だけは確かだろ。」
「………そうだな。彼女が決断してここに来たのなら、俺も彼女に対して気持ちを固めるべきだな。」
カンサはそう言って頷くと、もう一度少女の方へと目をやった。