父のこと③
今日父は話せなかった。
昨日よりもしんどそうで、より意識も朦朧としていたようだ。
目の焦点も合わなかった。
それでも、私が声をかけると足を動かして
起きあがろうとする素振りを見せた。
病院の先生は聞こえてはいるから、声をかけてあげてくださいと言った。
母は泣いていて声を掛けることが出来なかったので
私が声をかけた。
このまま衰弱していく姿を見るのは心がもつか分からない。
だけど最期ぐらいはきちんと向き合わないといけないと思った。
これは父のためではなく自分のためだ。
いろいろな事情があったにしろ、家族よりも他の人を選んだ父に、
今まで拒絶されている理由が分からなくてずっと、仕方ないけれどいつかはきっと帰ってきてくれる。そう思って納得してきたけれど
自分が前に進むためにはきちんと受け止めて、傷つかなくてはいけないと思った。
それにこんなにも心配時に、私は歯がどんどん化膿していて、一時岡山に帰らなくてはいけなかった。
帰ってきてからも、父の苦しそうな姿を思い出して、ベッドに入った後も涙が止まらなかった。
神様、幸せの振り幅は小さくても良いから
悲しみの振り幅も小さくしてくださいと思った。
母からは父は、私へのかかわり方が分からないと言っていたけれど、ずっと可愛いと思って居たんだよ。と言ってくれた。
もしかしたら、父が帰って来れず、他の人との生活を選んだのは私のせいだったのかもしれない。
私が帰る場所を、奪ってしまったのだろうか。
もっと可愛げのある娘だったら、父も帰ってこれたのかもしれないな。
自分はどうしていつもこんななのだろう。
自分がしっかりしなくちゃ、と思うのに現実はちっともうまくいかなくて嫌になる。
私の祖母は鋼のメンタルだ。
母の前では我慢していたものが、家に帰っておばあちゃんの胸で声を出しておいおい泣いた。
おばあちゃんは、大丈夫、大丈夫と繰り返して隣に布団をひいてくれた。
これから何度、こんな悲しみに出会わなくてはいけないのだろうか