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呪い

死んだ彼女は
最期の最期まで僕の小指を握りながら

「忘れないで、あたしのこと、忘れないでね」
と言っていた。

彼女が僕にかけた最期の呪い。

忘れないで、という言葉は残された人にとっては重く伸し掛る永遠の足枷になる。
だから僕は、もし自分がその立場になったら、

「僕のことなんか忘れてくれ。二度と思い出さなくていいし、他の人と幸せになってくれ。」

って言うんだって今の彼女に話す。

彼女は笑いながら言う。

「そっちの方が呪いなんじゃない?」

僕は意味がわからない。

「忘れないで、って確かにエゴだと思う。これから何十年生きていく人と、ここまでの人と、時間が一緒なわけないから。でもさ、忘れてくれ、はもっとエゴだと思う。あたし的に忘れないで、は、赤い糸を強く縛ってるイメージ。忘れてくれ、は、赤い糸を引きちぎっちゃうイメージ。きっとどっちも痛いけどさ、ずっとそこにあったものがなくなってしまう方がきっと辛い。」

んーと僕は悩む。
言いたいことが分からない訳では無い、彼女は不器用ながらに違いを説明してくれてる。
しばらく考えてる僕の手に彼女はそっと自分の手を置いて

「でもさ、何年経っても、あたしと出会ってからも、こうやってお墓参りしてるんだからさ、呪いなんて言わないであげなよ。」

僕にそう言ったあと、彼女は
また来ますね。とお墓に言って、先車戻ってるねーと足早に去っていく。

僕は、そっと小指を触る。
赤い糸がきつく結ばれている感覚だけがそこにあった。


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