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冬の水溜まりの初氷は薄い

私は姉の事をあまりにも知らなかった。
余計な話をせず、頭が良くて研究一筋の高嶺の花のような人だと思っていた。
なのにこの人から聞く姉は、まるで人たらしだ。
頭が良く研究一筋ではあるが、決して人を寄せ付けないわけではないらしい。コミュニケーション能力が高く、魅力的な人だと。
私の知る姉とはかけ離れていて戸惑う。
「特に、彼女に見つめられながら話す事は…今、僕は彼女と目を合わせられない」
「何故ですか」
私との事が原因だったら良いなと思って聞いてみたけど。
「彼女に逆らえなくなるから…」
コートの前を合わせ、そのまま腕を組んで寒そうに背中を丸めた。
常に冷静な顔を崩さない人が、今は寂しそうに見える。
違う顔を見せてくれるのは嬉しい、私の為でなくても。
「寒っ」
大きく風が吹いてくる。
さっきまで暖めあえる距離にいたのに。
私たちはずっとそこには居られない。

蚊帳の外の私には、姉とこの人の事も、姉とあの人の事も、この人とあの人の事も何も分からない。
只、私にできる全ての事を注ぐだけ。それでも気持ちを押し付け合う関係になれない。
なのに、姉は目を合わせただけでこの人の気持ちを動かす事が出来るのだ。
その一瞬に私の何年をかければ同じになれるのか知りたくて、いつも馬鹿みたいに聞いてしまう、
「姉と目を合わせられるようになりましたか?」
この人の答えが変わる日が来るのを待っている。
特にこの季節は寒さで気持ちが弱くなっているはずだから。


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