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小説✴︎梅はその日の難逃れ 第22話

進路指導室のやり取りは
演劇部で活躍してきた凛の通る声のせいで
廊下まで丸聞こえだった。

(凛さんが振られた?あんなに美人な人を振るなんて一体どんな男なんだろう?しかもそれをバネにしちゃう彼女もすごい。それに比べて私は……)

この日もはっきりと答えが出せず
モヤモヤしたまま、面談は終わった。
進路がはっきりしないものはクラスでも、もう数人となっていた。

千鳥もいよいよ焦ってきた。

進学するにしても、準備が間に合わなくなる。
母は、好きにして良いよって言うけど
自由って意外に大変だ。
親が決めたことに従うしか無い時代の
小春さんからしたら、なんて贅沢な悩みなんだろうと思うけど。
私は私で、切実なんだ。


その日は、部室で打ち合わせがあった。
凛はあの日以来、部活にも来なくなっていたが
卒業生を送る会があり、演劇部でも寸劇で送り出すことになっていた。
その為、久しぶりに全員顔を揃えた。

この日、珍しく千鳥の方から声をかけた。
「凛さん、変わったよね。なんか輝いてる」
「え?この前の進路指導の時
聞こえてたでしよ?振られたんだよ?私。なんで輝いてるのよ」
「あ、ごめん。聞こえちゃった」
「ふふふ。ドリちゃんならみんなに言いふらすとかしないだろうと思って、気にせず話しちゃったよ」
「目標が定まってそこに向かう姿、なんかかっこいいなって思って」
「ドリちゃんはいい子だね。私もそうやって素直だったら振られなかったのかな?」
目を逸らす凛を見て、慌てた千鳥は
「ご、ごめんなさい!」
「いいんだよ。気にしないで」
「お勉強頑張ってね」
「ありがとう」

千鳥は少し凛との距離が
ここにきて縮まったと思った。
凛は早い段階から千鳥を
「ドリちゃん」とあだ名つけて呼んでくれていたが、あまりに世界が違っていて、自分から声をかけることもなかった。
これから卒業までに、少し仲良くなれるかな?と思いながら凛の綺麗な横顔を眺めていた。


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