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ネコチャンになりたい8

台風が来ている。
というか、その只中にいる。

わたしの地域も暴風域に入っていて、でも雨風はそう強くはならないだろうという予想だ。だけどもう怠くて辛くてなんでもいいから家に帰りたくて午後から休ませてもらった。
今日でなければならない仕事があったのだけど、「台風の影響を鑑みて」という反論しにくい言葉で各社にお詫びのメールを送って明日以降にずらしてもらった。

一昨日くらいから、朝起きられない。
起きてもベッドから出られない。
這いずるように床に降り立ち、ゾンビみたいにうろうろして支度を始めても、ご飯を食べて服を着替える前にまたベッドに戻ったりしている。こういうとき1Kって駄目だ。ベッドがテーブルの真後ろにあるんだもの。
それで、会社に行くのももうずっとスッピン。メイクの時間を抹殺してぐずぐずゾンビになってる。
どうせマスクと眼鏡をするからいいんだ。


そんなとき、飼い主にぴったりくっついて眠っているネコチャンの写真なんかが流れてくると「んわーーーーー」となる。
わたしもそれになりたい。
飼い主のほうじゃなくて、ネコチャンのほう。
ネコチャンになりたい。

以前みたいな「死んでネコチャンに生まれ変わりたい、人間なんてクソだ、ネコチャンの来世が来い」みたいな気持ちはまあ鳴りを潜めているけれど、今は「来世なんていらん、今世でネコチャンになりたい」という漠然とした思いがある。
とにかく、あのふわふわで柔らかくて自由でふわふわでにゃーと鳴く生き物になってニンゲンに飼われていたい。にゃーと鳴いただけで撫でられて愛される生き物になりたい。
社会生活や金銭や人間関係に振り回されない生き物。
台風に怯えていたら抱っこしてもらえる。
カーテンの隙間から窓の外を眺めているだけでアイドルになれる。
人につれなくしたって「それがまたいい」なんて言われる。
ネコチャン。


たぶん、愛されたいんだろうなあと思う。人に。
恋愛的なものではなくて、大きな親愛のようなものが欲しいんだろうなあって。
わたしは「恋愛的に」愛されていると分かると途端に距離を置いてしまう悪癖があって、特に男性が苦手なものだから男性からの好意にはやんわりしっかり拒絶を示してきた。
でも女性からの好意には応えられるかもしれない。わたしの恋愛志向はどちらかというと女性に寄っている。
体格の違う男性から抱き締められるのも悪くないけど、女性のやわらかな腕にぎゅっとされるほうが安心する。
でも、でも、だ。先日の記事で書いたけれどわたしは母のことがずっと怖くて、もしかしたらそのとき得られなかった愛情を相手に求めているのではないかと思ってゾッとすることがある。
女性のほうが好きなのは母を求めているだけなのかもしれない。
男性が苦手なのは父が苦手だからなのかもしれない。

だからネコチャンになりたい。

人ではなくネコチャンならどれだけ愛されても悍ましくない。
愛情不足のネコチャンにだったら、多くの人はきっと愛情を注いでくれるだろうし。
ずっとずっと好きで、今でもたぶんまだ未練があって、我ながら粘着質だなと思うような相手がいるのだけれど、その人とはたくさんハグをした。会うたびにぎゅっと抱き締めてもらって、別れるたびにまたぎゅっと抱き合って、幸せだった。本当に好きだった。
人間同士で女性同士だから上手くいかなかったけど。
ああ、ネコチャン同士でぎゅっとくっついて眠っている、あんな写真みたいになりたかったな。あの人とするハグは本当に幸せだった。


来世なんてなくていいし、なんなら今生きているのも結構しんどい。
七夕の願い事でネコチャンになれますようにって書けばよかった。
人間に生まれてしまったことが自分の最大の不幸だなって思います。
だけど人間でなければ、文章を書いたり絵を描いたりゲームしたり好きな人とランチしたりする幸福も得られなかったのだと思うと、すごくすごくすっごく複雑な気持ち。

生きるって難しいです。

読んでいただいてありがとうございます。サポートくださったら、それで美味しいものを食べて生きます!