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「スーツ=軍服⁉」改訂版 第57回

『スーツ=軍服⁉』(改訂版)連載57回 辻元よしふみ、辻元玲子

偶然が生んだループタイ

ネクタイの話題に絡めて一つ、ご紹介しておきたいのが、和製英語でいわゆるループタイの歴史だ。
旧聞になるが、二〇一一年四月から六月にかけてテレビ東京系で「鈴木先生」というドラマが放送され、主演の長谷川博己がトレードマークとして首からループタイを下げていた。それで久しぶりに、このアイテムが注目された。それまではどちらかというと年配の人のアイテム、という印象が強かったが、ちょうど東日本大震災の直後の時期であり、折からの「節電ビズ」の動きと、原作コミックの人気、ドラマ化の影響もあり、若い世代にもかなり人気が再燃したという。
もともと日本では、一九七〇年代、オイルショック後の省エネ運動の中で、夏場に暑くないネクタイとして大いに人気を得た。しかし、その後は省エネの動きが目立たなくなりブームが続かなかったため、結局、その当時の現役世代の方たち、高齢世代のもの、という印象が強くなった。
しかし、クールビズ以後、夏場にネクタイを外すことが推奨されるようになって、なにもないのはだらしないし間抜け、しかし普通のネクタイは暑いし、というときに、格好のアイテムとして一部で再注目されてきた。特に若い世代では、シルバーや琥珀のノット部にこだわり、ネックレス感覚で用いることが多く、また、カジュアルな服装のとき、さらにポロシャツやTシャツのときにもネックレスのように下げる着こなしが見られる。
実はループタイとは日本の呼び方で、英語ではボロタイbolotieとかボーラタイbolatieと言う。ボーラというのはカウボーイが使う投げ縄で、その名の通り、アメリカではウエスタン・ファッションのアイテムと見なされる。
一説では、一八六〇~七〇年代にはすでにアメリカ西部のガンマンたちが、これの原型となるヒモのように細いタイを着用していたという。しかし今のように、ノット部に装飾を付けたネックレスのような形式は、一九四〇年代にアリゾナ州の銀細工師、ヴィクター・シダースタッフという人物が創案した。
ある日、ハットを被り乗馬していたシダースタッフは、風にハットが飛ばされないように、銀の飾り付きの「あごヒモ」を引き絞っていた。それを見た友人に「おい、いかしたネクタイだな」と冗談をいわれ、「そうだ、それなら本当にヒモ状で飾りのついたタイを作ろう」と思いついた、という。以来、ウエスタン・ファッションの定番となり、アリゾナ州、ニューメキシコ州やテキサス州では公式のネクタイとして認定され、公式の場でも着用される。カントリーやロカビリー系のミュージシャンにも愛用者が多い。
また、英国では一九五〇年代にブーツレースタイbootlace tieつまり「靴ひもタイ」の名で人気が上昇し、ファッショナブルな若者はスーツにこのタイで街を闊歩した。


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