見出し画像

『スーツ=軍服⁉』(改訂版)第59回

『スーツ=軍服⁉』(改訂版)連載59回 辻元よしふみ、辻元玲子
※最初にちょっと宣伝をさせていただきます。
辻元よしふみが翻訳監修した『地図とタイムラインでわかる戦争の世界史大図鑑』が河出書房新社から10月26日に刊行されます。原書はイギリスで刊行されたBattles Map by Map。古代エジプトからイラク戦争まで、世界中の戦争を紹介する一冊です。日本関連も壇ノ浦の戦いや関ケ原合戦から太平洋戦争まで登場します。ご興味のある方、是非宜しくお願いいたします!

軍隊における「連隊」の格

ところで、こういうレジメンタル・タイの話題を語るときに「レジメントとは連隊の意味」という説明が必ず付くのだが、ではその「連隊」なるものは、軍隊の中でどういう位置づけなのだろうか。
連隊=レジメントというのは、国により時代により違うが、おおむね数千人ぐらいの規模の部隊をいう。その指揮官である連隊長は世界標準としてcolonel=コロネルが務める。日本語訳で「陸軍大佐」である。
ちょっと遠回りになるが、「連隊」というものが非常に重要な組織であることを認識するために、軍の組織と階級の歴史について簡単に紹介してみたい。
遡ってみると、西欧軍事史でいちばん古い部隊編成はファランクスというもので、古代ギリシャの歩兵部隊のことだが、これはざっといって「軍勢」といった程度の意味である。
ファランクスを、長槍を装備した歩兵の陣形として整備したのがマケドニアのアレキサンダー大王で、一ファランクスを二百八十人ほどとし、それをまた二つのバタリオンに分けた。また、騎兵部隊はカンパニオンと呼ばれた。
ローマ時代になると、五千人ほどの軍隊をレギオン(軍団)と呼び、それは複数のマニプルに分かれ、おのおののマニプルはケントリオ(百人隊)に分かれて百人隊長が指揮した。
その後の西欧は国家の軍隊というのが消滅して、封建領主率いる騎士団の時代になっていく。古代には国家の軍隊があって徴兵制まであったのに、その後は私兵である武士団しかなくなってしまう日本とよく似ている。
ここまでバラバラに出てきたいろいろな部隊の名前が、十六世紀末から十七世紀初めに、軍隊の編成の中で再定義されていく。

古代以来の由緒ある呼び名

スウェーデン王グスタヴ二世・アドルフ(一五九四~一六三二)は、近代軍隊の生みの親と呼ばれる人物である。というのもこの王様、一つには軍隊に軍服というものを制定した。それまでは兵隊はそれぞれ好き勝手な服装をしていたのである。それを部隊ごとに、兵種ごとにデザインや色を決めた。ミリタリー・ファッションの創始者なのである。各国はそれにならったが、制定はしても調達は部隊、個人の責任であった。その後、陸軍軍服の支給制度を整えたのがフランスのルイ十四世ということになる。
もう一つ、この時代に、現在にいたる軍隊の編成と、軍人の階級の基礎ができてきた。それまでは西欧の軍隊も日本の武士団と同じく、なんとなく貴族の殿様に率いられた騎士とか軍勢とかが適当に集まっているだけのものだった。それを組織的に編成したのである。
まず、五百人ほどの部隊を組織してバタリオンと呼んで基本編成とした。マケドニア以来の呼び名である。
バタリオンの下には百~二百人のカンパニーを三、四個置いた。この名前はマケドニアの騎兵隊が語源だが、内容はローマ時代の百人隊に近い。
また、バタリオンを三、四個集めたものをレジメントとしたのである。もちろんこのレジメントというのはローマ軍のレギオンが語源である。
つまり、マケドニアやローマの非常に復古的な軍隊の名前をわざと持ち出したのである。アレキサンダー大王やシーザーのような古代の英雄、名将にあやかって士気を高めて欲しい、という狙いがあったのはもちろんである。
そして、レジメントの長をコロネル(縦隊長)とした。コロネルはイタリア語からきた言葉で、中世の軍隊の一列縦隊の指揮を執った指揮官の名に由来する。そのコロネルの下に、バタリオンの長であるリューテナント・コロネル(縦隊長補佐)、カンパニーの長としてキャプテン(隊長)を配置した。それぞれの指揮官名の言葉もまたラテン語やフランク古語、フランス語などに由来する。また、キャプテンの補佐をする士官をリューテナント(補佐官)、兵士たちの中のリーダーをサージャント(語源はサーヴァントと同じなので言葉の本意は召使とか、下仕えなどとなる)、さらに十人ほどの兵士につきその頭となる一番下級のリーダーをコーポラルとした。
で、軍隊全体は、コロネルたちの上に君臨する一人のジェネラルgeneral(統率者、総大将)が統率した。
ジェネラルというのは国王のことであり、これに次ぐコロネルは大貴族が務める。以下の士官もリューテナントまではおおむね貴族の子弟が任命された。
有力な貴族はコロネルとしてレジメントを事実上、保有するに等しかったし、平和なときに常設されているのはレジメントが最高の単位で、それを束ねた大軍やジェネラルなどは特別なときしか存在しないので、結果として、軍隊というものの基本はレジメントということになったのである。
ということで、このころはジェネラルとかコロネルとかキャプテンとかいうのは、階級ではなくて、あくまでもある規模の部隊の指揮官の意味であった。部を率いる部長、課を率いる課長というようなものである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?