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『スーツ=軍服⁉』(改訂版)第74回

『スーツ=軍服⁉』(改訂版)連載74回 辻元よしふみ、辻元玲子

日本でいう「ジャンパー」も「セーター」も通じない?

軍用の戦闘服、というものは、要するに作業用ジャンパーの一形式と言える。
ところで、日本人が日常、「ジャンパー」と呼んでいる、腰丈の簡略な作業着は、英語圏では「ジャケット」であり、用語としてはスーツの上衣やブレザーと変わらず、上着という意味しかない。英語でjumperというと、特に英国の人はニット衣料だと思ってしまう。つまり、日本人が通常、セーターと呼んでいるような、被りのニット上衣だ。ここでいうjumpは「飛ぶ」という今の英語の意味ではなく、古語の上着という語に由来する言葉のようだ。この意味で、日本の女子学生が着ているような、被り(プルオーバー)タイプの上衣が付属したスカートも「ジャンパー・スカート」と呼ばれるわけだ。フランス人が言う「ブルゾン」という言葉の方が、日本でいうジャンパーの概念に近い。
なお、sweaterという言葉も、日本人が「セーター」と呼んでいるプルオーバーのニット、を指すとは限らない。確かにいわゆる防寒用の「セーター」も含むのだが、もっと広く、伸縮素材で作った、汗sweatをかくためのスポーツ用の上衣、つまり日本でジャージー、トレーナーと呼んでいるもの全般を指す場合が多い。ジャージーとは本来、英領ジャージー諸島産のニット素材で作った作業着のことである。また、トレーナーというのは全くの和製英語である(日本でいうトレーナーはスエット・シャツsweat shirtと呼ぶ)。

自動車と飛行機がブルゾンを生んだ

中世のヨーロッパの紳士服は、腰丈のダブレットだった。これはそもそも、甲冑の下着から発展したので、裾がなかったのである。しかし、十七世紀にチャールズ二世らが普及させた長い上着が登場してからは、一九一〇年代まで、紳士はきちんとしたテーラード・タイプのスーツやジャケットを着ており、お尻が出てしまうような上着は普及していなかった。
だが、二十世紀の初め、自動車と飛行機という、新しい乗り物が立て続けに登場する。これらのコクピットや運転席は狭く、シートに着席するには、乗馬服のような長い後ろ裾がある上衣は邪魔になってくる。また、初期の自動車も飛行機も、密閉型のガラスに覆われたコクピットや運転席ではなく、露天の雨ざらし、吹きさらしであった。操縦する人は開放的な操縦席で、もろに風を受けて操らなければならなかったから、防風用の飛行帽や運転帽、目を守るゴーグルと共に、皮革製の温かい上着が必要になってきたのである。一九一四年に始まった第一次大戦では、自動車と飛行機が大活躍し、これらに対応した、丈が短い上着の必要性が、特に各国軍部の間で高まったのである。

民間用の「バルスタリーノ」や「G9」も登場

こうして、一九二七年にアメリカ陸軍航空隊が、パイロット専用のA1ジャケットを採用した。三一年にはこれに、ちょうどこの時期からアメリカを中心に普及し始めたジッパーを取り付けたA2ジャケットが登場し、今、我々が日本でジャンパーと呼ぶタイプの服の原型となった。これらの軍用ジャケットが好評だったために、一九三五年にはイタリアのバルスター社が「バルスタリーノ」を、同じころに英国のバラクータ社がゴルフ用のジャケット「G9」を売り出し、民生用ブルゾンの先駆けとなった。


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