9月のメンバーシップ限定小噺『漁火』
私は魚釣りというものをあまり好まない。
以前、別の部署にいた際に上司に連れられて何度か魚釣りに同行したことがあったのだが、船酔いするし、潮風はベタついて気持ち悪いし、肝心の魚も釣れずに大変な思いをした。餌の虫を触ることが出来なかったのも苦手となった要因は大きい。
おまけに魚釣りの道具というものは本格的にしようと思えば、高価で気軽に始めるにはハードルが高い。
そうした理由から上司との関係性をスムーズにする為の趣味はゴルフに決めた。実際、ゴルフは「紳士のスポーツ」と呼ばれるだけあって非常に洗練されており、有り体に言ってしまえば極めて快適だった。
勿論、魚釣りに比べればという程度ではあったが、船で魚釣りに出かけるとトイレへ行くことも容易ではないので、必然的にゴルフの方が趣味としてのハードルは低い。
しかし、対策室に異動になってからはゴルフにもさっぱり行かなくなってしまった。単純にそんな時間など逆立ちしても捻出できないからだ。大人数で接待をするようなゴルフを優雅に楽しんでいる余裕などない。
むしろ対策室の案件で船を使って沖へ出ることが増えた。まさか小型船舶の免許まで取ることになるとは、自分では予想だにしていなかった。
驚くべきことに、海にも怪異は出没するという。
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