病投墜下
年の瀬の凍えるような冷気をかき分けて、ようやくここまでたどり着いた。
廃墟となった病院、その朽ちかけた病棟の外壁の有り様に、どうしようもなく惹かれてしまう。病棟の壁の蔦が建物を覆い尽くすように四方へ手を伸ばし、背後の森に半ば呑み込まれつつある様が特に良い。まるで腐敗していく、死の一場面を眺めているような気分になる。
周囲に誰もいないかと確認すると、近くの木に一羽の鴉が止まっていた。立入を禁止するロープを潜り、金網のほつれから中へ入る。
正面入口の自動ドアは砕けて、足元に破片となって散らばっている。
来客用の長椅子は腐り、受付には様々な書類がふやけて散乱している。
荒廃した病棟の中は、冷たい死の気配がした。
受付を抜けた、病棟の中央には大きな吹き抜けがあり、休憩用のベンチが置いてある。その先、吹き抜けのちょうど真下には枯れた噴水があった。中を覗き込むと、色とりどりの落ち葉が溜まっている。その落ち葉の絨毯の中に、それは横たわるように埋まっていた。一瞬、気のせいかと思い、いくつか手で払い除けると、すぐに確信へ変わった。
死体だ。人間の死体。
真っ黒く変色し、手足を丸めるような形で亡くなっている。腐っているというよりも、乾いているという風に見え、服の方がよほど綺麗に残っている。性別は女性、制服のように見えるから、年齢は多分、僕とあまり変わらないくらい。小柄で線が細い。なんだか酷く薄っぺらく見えるのは、下になっている右半身が完全に潰れているからだ。
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