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飢餓満漢

 高速道路のサービスエリアについた私たちは、震える足を叱咤してなんとか車外へと出ると、疲労と眠気に襲われる身体を起こすべく、大きく背伸びをした。現場からここまで大した距離ではないのだが、今回の案件は本当に心身共に疲れ果てた。今、目の前に完璧にベッドメイクされたベットがあれば、たとえ人前であってもすぐさま潜り込む自信がある。

 千早君などは背伸びの勢いに負け、尻餅をついてしまっている。呆然と半分ほど意識が飛んでいる顔をしているので、その肩をつかんでグイグイと前後に揺らして覚醒を促した。

「起きてください。夕飯を食べて帰ろうと言ったのは、千早君じゃありませんか」

「うぅ、眠てぇ。大野木さん、腹が減って死にそう」

 疲労と空腹に、ここまで襲われることも珍しい。明日の案件さえなければ、こうして無理に戻ってくることもなかったのだが。

「今ならなんでも食える気がする」

「そうですね。食事を摂ったら車内で少し仮眠を取りましょう」

「嫌だ。食べ終わったら一刻も早く帰って風呂に入りたい。大野木さんの高い入浴剤全部入れる」

「却下します。しかし、あの地下室は確かに過去例のない有様でしたからね。その気持ちはわかりますが」

「あやうく溶かされるとこだった。おまけにやたら時間もかかったし。ああ、疲れた」

「時間が傾いでましたからね。外では半日でしたが、体感時間は二日半。参りました」

「今度こそ死んだと思ったわ」

 その場合、死因はきっと餓死だったろう。

 ゾンビのようにふらつきながらも、なんとか二人でフードコートまでたどり着くと、ショーケースに並ぶ食品サンプルに目が釘付けになった。極限状態に近いので、もうなにもかもが美味しそうに見える。だが、二人とも気力も限界なので、特にはしゃぐでもなく、黙々と食品サンプルを食い入るように眺めるばかりだ。

 店も一店舗ではない。選べる料理のジャンルも様々だ。ラーメン、うどん、ハンバーガー、中華、定食、とんかつ、と幅広い。これらの膨大な選択肢の中から最適な回答を見つけるのは至難の業といえるだろう。

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