紫魂首枯
依頼人は、今まで何度か仕事を受けたことがある、資産家の男だった。
連絡はいつも一方通行。奴の秘書だかなんだかから連絡があり、こちらから指定された番号へ電話をかけ、依頼を受ける。この男の依頼は常に高額で、その分手間がかかるものが多かった。
しかし、今回の依頼は依頼人本人から電話で連絡があった。おまけに、金額はこれまでとは比べほどにならないほど高額。前金だけで普段の成功報酬並み、成功すれば五年は仕事をせずに暮らせる。
初めて聞く依頼人の声はしわがれ、相当に高齢であるらしい。話し方からして、医者や議員の類だろう。
盗んでくるのは骨董品、筆の銘品であるという。
『奴は月に数度、馴染みの料亭に顔を出す為に家を空ける』
声しか知らぬ依頼人が、電話口の向こうで笑みを浮かべているのが容易に想像できた。
『こればかりは余人に任せる訳にはいかぬでな。他言は無用』
三日ほど悩み、引き受けることに決めた。
他言は無用だという依頼人の依頼を断れば、ロクなことにならないのは目に見えている。最初から引き受ける以外の選択肢はないのだが、この三日間で件の屋敷のことを調べることができた。
下調べは十二分、しかし、調べれば調べるほどに得体が知れない。彼を知る者ほど一様に口を閉ざしてしまう。
木山千景。
どんな男なのか、俺は興味が沸いた。
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