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気まぐれ美少女ゲーム感想vol.7 CARNIVAL+CARNIVAL 小説版感想

CARNIVAL


以下、長文感想。

正直なところ自分でも、何故こちらの方をSWANSONGよりも高く評価しているのかが解らない。落ち着いた筆致で、限界状況における人間の醜さ、狂気や絶望を描き出してきたSWANと比べ、CARNIVALの筋はあまりに無軌道で、落ち着きがなく、まとまりはない。

序盤からフルスロットルで暴走し、暴想し、歪みや軋みを残しつつも駆け抜けて見せる。その良くも悪くもの奔放さというか、爆発力のようなモノに惹かれたのかもしれない。

にしてもこのゲーム、主人公である木村学の行動が意味不明の極みである。完全に行き当たりばったりで行動している。質の悪い事に、狂気のなせる業なのか、それでも一定の結果を出し、多数の人間に被害を与えつつも最後にはヒロインと結ばれる? なんじゃこりゃ、とシナリオ1を読んだ時は感じた。意味がよく分からない。いや、作中でも言及されている通りに意味なんてないのかもしれないけれど、突っ走るようなストーリー展開には脱力しつつも驚かされた。

バッドエンドで脈絡もなく差し挟まれる容赦のない狂った凌〇パートも冷静に考えなくても意味不明だし、主人公の饒舌で自虐的、時に謎の知識をひけらかして見せる頭の良さ?的なものやうだるような夏の蒸し暑さ、逃亡中の犯罪者であるという点、様々な要素が物語を掻き立て、CARNIVALを象っている。空疎な狂騒、陳腐なお祭り。小説ではなくノベルゲームという媒体だからこその作品だと思う。緊張感のあるメロディも不穏な感情を芽生えさせられて良かったし、逆に回想シーンで流れる郷愁感ある音楽も良かった。幼少期理沙好き。

また、本作は三つのシナリオから構成されており、プチ群像劇のような性質も帯びている。
〈人によって見え方が変わる〉……←(この表現、曲がりなりにもアマチュア創作を趣味としている人間からすると些か以上に違和感を覚える。いや当たり前だろ。見え方が変わらなかったら登場人物全員作者の分身みたいな痛々しいことになるので)……ことで、ある人物にとっては重大な意味合いを持っていた出来事が、他の視点から見ると〈なんでもない〉こととして矮小化される。

 如実に表れていたのがシナリオ3の理沙パートの後半だと感じた。武に死体の側で犯され、しかもその事実をクラスメイトや教師や親に知られ(さらっと流されているがだいぶ悲惨と思う。理沙が人気のある女子生徒であることも相まって)、その後の部屋でのシーン。
父親に心配され、 

〈なんでもない〉ことなんだよ。

 と答えるシーン。
これがだいぶ、ぐさりと来た。幼少期から父親に性的虐待を受け、しかもその事実を知っているのに助けようともしない母親(台詞やバッドエンドからある程度推察できる)、とんでもない家庭で育った彼女にとって、エロゲで礼賛される性行為は〈なんでもない〉こと。

 だからシナリオ1のラストで描かれたような学と結ばれて、「救い」を与えられ、なんかこれまで色々と辛いこと会ったけどまぁいっか! これからを楽しもう! という態度は本作においてはとることが出来ないだろう。大体そんなものは、主人公からヒロインに一方的に与えられるお仕着せの〈幸せ〉に他ならないのだから。「救ってあげることの暴力性」みたいなテーマ? は、ユーフォリアやフラテルニテに魅せられてこの界隈に滑り込んだものとしては日々思考しているところだ。(可哀想な、傷のある、歪んでしまった女の子を助けるということが、果たしてヒロインの側からして本当に価値のある事なのか?
という命題)

だから先行きは暗い。
 
 結ばれてハッピー、万々歳。けれどそれでもこれまでのことは全部チャラにはならない。

 だが、その絶望的な救いのなさの中にも、どこか吹っ切れた、清々しいものも感じさせる。シナリオ3を終えた後にシナリオ1に追加される満天の花火を母親と理沙と学が観るというシーン。勿論これは正史ではないifだけれども、虚しさや報われなさを抱えてこれからも生きていくことへの示唆に満ち溢れているし……これは特に言いたいことだが、ヒロインとHして終わり、ではなく、そこをあくまでも通過点として、どんどんその先を目指していくような、突き抜けていくようなラストには少なからず胸を打たれた。可哀そうなヒロインを救った!→大団円、結ばれてハッピーとしなかっただけ、CARNIVALは傷ついた少年少女が愛の逃避行をする、あるいは学苑とかいう虚構空間で知性が崩壊した恋愛茶番劇をする凡百の「恋愛もの」の上に位置付けられてしかるべきだと私は考える。学や読者にとってどうかはしならいが、少なくとも、理沙にとっては、〈なんでもないこと〉なのだ。

こんなハイテンションで突き進む、しかもその無軌道さの中に確かなメッセージ性(というと陳腐化か。哲学?)を滲ませる筆致だけで、最高だった。SWANはミクロな問題に焦点を当てるあまり(脇役もちゃんと活写しようとするあまり)、どうもこの辺りが消化不良だったような気が。本作のサブヒロインはあくまでサブでしたね。婦警さんは連勤で性欲溜まってたんだろうか。あれはギャグシーン?

どうも、暗さを孕みながらも何処か軽快なノリで読みやすく、語り掛けるような口調で巧みに物語を展開させるやり口に惹かれているように思える。次はキラ☆キラやろうかな。

電気サーカスとかも読んで見たいね。


CARNIVAL 小説版



 某フリマサイトにて三万円弱で購入した。本編の七年後を書いた作品で、事実上ゲームの続編である。ネタバレを多分に含むと思うので、プレミア価格でも買って自分で読みたい! という方は読まない方が吉。それ以外の人は勝手に読んでください。念のため、核心部分に触れるネタバレは避けときます。

 まず、ゲームのノベライズと言うと「本編」をそのままになぞる、要するにノベライズという体裁を取ることが多いと思うのだが(それかサブキャラなどを主役に置き、あくまで「外伝」という体にする)、本作は列記とした「続編」である。本編で起きた事件から七年後、学と理紗に取り残された人たちの話と言ったところか。メインの語り手は理紗の弟で、物語の前半では七年前起きた事件(本編)を別視点で辿り直す、ということを改めてやる。被害者家族ではなく加害者家族の視点から事件を洗い直す様は、東野圭吾の『手紙』とかを思い出した。辛辣な意見だが、正直なところ、各ヒロイン(渡会さんなど)のその後を知ることができるのはいいものの、それも意外性はあまりなく予想の範疇であるし、これと言った見所に欠けると言ったのが正直なところで、100ページほど読み進めて「うーん」と唸った。ミステリにおける退屈な手続き、事件の調査パート。これらも困っているところに〈何故か都合よく〉証人が現れるパートが多く……まあそこはご愛敬か。本編をプレイした読者が観たいのはやはり「理紗と学がどうなったか」なのであり、特殊性癖持ちの男と不良少女ならぬ浮浪少女(本作のヒロイン)の交流をみたいか? というところが正直ではあった。だが、語り手が姉である理紗との再会を果たしてから、物語は急展開する。

 理紗の口から本編のエンディング後の逃亡の経緯が滔々と明かされ、分かってはいたけど、「やっぱりなあ……」と。都合よくはいかない。世間は甘くない。CARNIVALは思春期特有の暴走みたいなものを色濃く反映した(クリアしたのが半年前位なのでどうにも筆が乗りづらい)作品だとは思うのだけど、続編である本作はその狂騒じみた時代が終わった後、社会(世界)に出た後どうなるのかを如実に、残酷なまでに突き付ける展開だったと感じる。

 オタク系の作品で主人公に中高生が多いのは、それはやはり露悪的な言い方にはなるが社会に出ていない分自由に物語が展開できるからだ。無際限に否現実(逸脱)に耽溺できる時代が過ぎ去った後、「祭り」が終わってしまった後、彼らはどうなってしまうのか。本作の終盤パート、Chapter.5で木村学の視点に入ると本編に負けず劣らずの迫真で生々しい狂気の世界に読者は誘われる。本編をクリアした方はここだけでも読む価値はあると思う。青春の残像、というか、プロローグにあるように「一番いい時で終わりたかった」みたいな。ああうまく言葉が紡げない。結構、衝撃を受けました。予想の範疇ではあるのだろうけれど、こうなって欲しくはないみたいな。BADEND版おやすみプンプンみたいな。いやあれもBADか。

 学の視点から見ても壮絶な後日談だとは思うのですが、間接的だからこそ理紗の語りにも圧倒されました。というか、本編の始まるきっかけも弟の下に理紗が電話をかけてしまったから始まったわけで、やはり思春期の逃避行は大人になっても続かないなと。残酷なまでの現実に押しつぶされる様が見事に活写されていました。もう少し学パートの尺があっても良かった気はするがあれより長いとこちらまで発狂しかねないので幸いだったか。理紗が家族と面会する場面も良かった。彼女なりの凄絶な決意というか戦う意思のようなモノを感じ取れましたね。素晴らしかった。

 事件は収束し、最後には残された人たちの話(本作の語り手とヒロイン)になるわけですが、ほんのり(異様な形ではあるが)希望を残して終わってくれたのは良かったです。視点を改めたわけはこういうことだったのかと。木村学視点だけだったら悲惨過ぎますからね。理紗も……。言うのが遅いかもですが、本編のエンディングの余韻を根こそぎ破壊しかねないほどの代物なので、ゲームのあの残響のような読み味を大事にしたい方は読まない方がいいかもですね。読むなら時間をおいて読むのが良いかもしれない。言うのが遅いよ。

総括


 小説と本編を照らし合わせて、まあゲームの方は再読が面倒なので省きますが、結局CARNIVALという作品の主題というか核心のようなものは何だったのか。
 他者を信ずることの難しさ、幸福とは何か。青春時代の域苦しさ、醜さ。様々考えられますが、続編にあたる小説では「他者」……事件によって被害を被った詠美や残されてしまった渡会さんや木村学の祖母、理紗の家族などの反応がちゃんと描かれていたことから察するに、やはり他人と関わることの難しさ、もどかしさ、というか「信頼」とか「絆」とかが如何に脆いか、そしてそんな残酷な世界でどうやって生きていくのか、と言った命題を色濃く内包した話だったのかなと。何せ「幸福」の譬えがニンジンだし。(絶対に追いつけないもの)

 本編の始まるきっかけも「いじめ」だし、その後も広いのか狭いのかよく分からない世界のどうしようもない側面をまざまざと見せつけてくれるのだから、まあやはり一個の美少女ゲームといった枠を超えて好きな作品ではありますね。じゃなきゃ、プレミア値で小説買ったりしないし。なかなかない作品だと思います。生き苦しい世界です本当に。

 小説で一番突き刺さったのは渡会さんの態度でしたね。「悪い人じゃなかった」とか弁明するシーンとか、顔を背けて肩を震わすシーンとか、単なる好意とか抜きにしても、言動や仕草から彼女の人となりが伝わってきて、こういう描写良いなあとか思いました。渡会ENDが好きなのもある程度の贔屓目だけれど。続編という形でまた歪な彼らに出会えてよかったです。余談だが婦警さんの登場の仕方が間接的に本当に草。彼女は一体何だったんだ。


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