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運動会の表現運動と子どもの生活

 秋の運動会のシーズンになりました。小学校や幼稚園・保育園(子ども園)では、本番に向けた練習が重ねられていると思います。幼稚園・保育園(子ども園)でも小学校でも、競技ではない「ダンス(表現運動)」が運動会の定番です。
 各年齢・学年ごとにさまざまなダンスを行います。流行のミュージックに乗せてリズムダンスを踊ったり、伝統的な「民舞」と呼ばれる踊りを取り入れたりします。沖縄県のエイサー、山形県の花笠音頭、北海道の「ソーラン節(南中ソーラン)」などが民舞の定番です。南中ソーランは、「3年B組金八先生」のドラマでも取り上げられたので記憶にあるかたもいるかもしれません。今、人気の俳優さんが中学生役として出演し、キレッキレッのソーランを踊っています。

振付を考えるのはだれか

 小学校の場合、担任が振付を考えることが多いです。秋の運動会の場合、夏季休業中に学年の先生が集まってテーマや振付を考えていきます。学生時代にダンスを学んできた先生がいる場合、かなりのアドバンテージです。ダンス経験者のいない学年の場合、ユーチューブのダンス動画を手本にしたりして、ダンスの素人が振付を考えていきます。わたしもその一人です。民間のダンス講習会に通ったこともありました。
 校庭のどこで踊るか、どのよう隊形移動をするか。保護者席はここだから、保護者から見えやすい位置で踊るようにしよう・・・などと、見え方も考えてダンス全体の流れを構成していきます。 

振付を考えるのは教師でいいのか

 振付を教師が考える場合、運動会を通して一番学んでいるのは、その教師です。なぜなら、圧倒的に学んだことをアウトプットする場面が多いからです。覚えた振付を細かい指導過程に分けて、45分×10回前後の指導の計画を立てていきます。児童の技能レベルごとに、個別の指導も行います。保護者に恥をかかせたくないからです。全員が一定レベル以上に踊れるようにして、保護者に満足していただける踊りを目指します。

 一方で、それでいいのかという思いがずっとありました。この、振付を考えて教える過程を子どもたちに担ってもらってもいいのではないか。最近は、振付を子どもたちが自ら考えて、子どもたち同士で教え合って表現運動を主体的に作り上げていく・・・そんな学習プロセスを計画する先生たちも増えてきていると思います。そこには「主体的・対話的で深い学び」という教育観の広がりがありそうです。
 一番学ぶべきはだれか。それは子どもたちです。表現運動を通して一番学んだのは子どもたちで、それを子どもたち自身が実感している・・・そのようなゴールを目指したいです。

 実は、運動会の表現運動をよく見ると、教師の指導のもとに「踊らされている」という一面が見えてきます。与えられた・決められた振付を、決められたように踊る。決められたように踊らないと、教師の叱責・怒号が飛ぶ。そんな場面をこれまで見てきましたし、わたしもそのようなものだと思って指導していた時期がありました。一矢乱れぬ姿が感動を呼ぶ・・・そんな価値観を子どもたちに押しつけていました。でも、それって今の子どもたちの実態、生活に合っているのでしょうか。

ダンスを習っている子が増えている

 ダンス人口は、今やサッカーに次ぐそうです。以下、引用です。

一般社団法人ストリートダンス協会によると、国内の推計ダンス競技人口は2015年時点で約600万人に到達し、サッカーの700万人に次ぐ競技人口へと成長を遂げています。(2001年比較で実に85倍)
競技人口が増加した要因としては、2012年に中学校の保健体育の授業でダンスが男女ともに必修化された影響が大きく、小中高あわせた市場規模は約2000万人に上ると言われています。

若者の五輪離れを危惧した国際オリンピック委員会(IOC)は、2024年のパリ五輪で新競技としてダンスの『ブレイキン』を正式種目に採択しました。このことからわかるように、ダンスは日本だけでなく世界でも注目を浴びているスポーツと言えます。
国内においては、2021年にプロダンスリーグ『Dリーグ』が誕生し、ダンサーにとって目指すべき夢とゴールの一つとして多くのファンを集めています。

 SNSにダンス動画をアップする人も増えている印象を受けます。なぜでしょうか。自分たちで振付を考えて踊るのが楽しいし、自分たちの表現を多くの人に見てもらいたいからでしょう。そういう人たちはダンスを学ぶ楽しさを味わっているはずです。TikTokやyoutubeでのショート動画は、見ていて飽きません。
 今の子どもたちは、教師よりもダンスや踊りに対する目が肥えていて、センスもずっといい。だったら、子どもたちを信頼して、振付を考えることや、練習計画を立てることも、子どものものにしてやってもいいのではないかと思います。
 一人一台タブレット端末が学校から配布され、自分のダンスを録画し、共有する活動ができるようになりました。ダンスの得意な子が振付の解説動画も作ることができます。ダンスを学び合う環境は整っています。

運動会のダンスと指導者の教育観

 運動会では、ダンスの構成という視点でもぜひ、多くの人に見ていただきたいです。そこに指導者側の教育観が反映されています。子どもたちの創意工夫がどれだけあるか。個や小グループでの「こう踊りたい」という思いは動きとして表現されているか。踊らされているのではなく、すすんで踊っているのか。

 とはいえ、楽しんで踊ってくれるのが一番です。子どもたちが心から楽しいと思って踊っているのか、ということが指導者側に反映される最もシビアな評価なのかもしれません。
 運動会本番だけでなく、学習過程全体を通して、一番心にのこっていることを子どもに聞いてみてください。その答えから、子どもが何を学んだのかが少し分かると思いますよ。
 私は教師として、運動会後にふりかえりの文章を書いてもらい、それを読み合って、「わたしたちは運動会を通して何を学んだのか」ということを子どもたちと共有したいと思います。子どもたちが主体的に学べる学習プロセスを保障する・・・それが教師の役割であり、身につけるべき教育観なのですから。


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