機密天使タリム「最終回直前!五分で読める総集編」
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1998年7月7日
世間でノストラダムスの大予言、世界の終焉の噂が流行っていた。
学校帰り、僕はグロテスクな人型の化け物と街中で遭遇した。
それはたまたま通りがかった気の毒な老人を丸のみにし、僕を見てにやりと笑い、大口を開けた。
それは僕に襲い掛かり……
『敵を殲滅します。大事なものを守るために……ロックオン、タリム砲発射!!』
きみは突如上空から現われ、一撃で敵を粉砕した。
そして異形のヘルメットを外すと「大丈夫?」と言って微笑んだ。
「あ、人前でコレ外しちゃダメなんだっけ……。世界で唯一の機密兵器とか、面倒だなあ」
ごく普通の女の子。
それがはじめてきみの顔を見たときの印象だった。
身にまとう武装を除けば、あまりにあどけない。
1998年8月末
それから、夏休みが終わり、二学期が始まり……
きみは、少女漫画でよくある展開を「日本の常識」だと思い込んで、通学路でいきなりパンを咥えて体当たりしようとしてきた。
教室にたどり着いたら……
『今日から転校してきたタリムです!日本語はまだチョトニガテ。細かいことは機密事項です!よろしくです!』
きみは僕のクラスに転校してきた。
仕組まれたかのように席は隣。
新任の黒鵜(くろう)先生は僕の耳元でこう呟いた。
「彼女の秘密を守り、日常を支援しろ。さもなくば正体を知っているお前は機密機関に処理される」
僕に選択権はなかった。
それからの毎日は実に大変だった。
授業中、きみは涎を垂らしながら寝ているかと思えば、数学や英語はクラストップの成績だし。ついでに僕のハンカチは毎日かっぱらっていくし。
突然歌ったり踊ったりして先生に怒られるわ……。
そんなだから最初はクラスから浮いてたね。
でも、困っているひとがいたら、必ず助けるために走っていた。
体育教師にセクハラされている女子生徒のために本気で怒って庇ったのはきみだけだった。
そのせいで学校から吊るし上げられても、周りの生徒たちを巻き込んで先生たちに声を上げたり。
暴動を起こした生徒たちから校長先生を守ったり。
そのドサクサで校長先生のヅラを吹っ飛ばして「校長の頭にリーサルヒットしてはいけない」って校則を作られるハメになったり。
(色々あったせいで校長はすっかりタリム恐怖症になってたなー……)
あれだけ「関わるな」って言ったのに、気の弱い生徒からカツアゲしている不良たちを叩きのめしたりした。
放課後は、気が付いたら僕の家に住み着いて勝手にせんべー食べてるわ、食うばっかりなのにワガママばっかり……。
寝起きは恥ずかしげもなくシャツにパンイチだし。
勝手に疎遠になっている親との関係にうっとおしく口出ししてくるわ……。
でも、きみはいつも笑っていたな。
何を食べても美味しそうに笑っていた。
学校行くのは初めてで、楽しいことばっかりだって笑ってた。
たかが動物園に行くのだって、「この世のヘブン」なんて言ってたし。
気が付いたら着ぐるみまで買い込んでいたし。
1998年9月
そんな生活を送りながら、
きみは陰では町に現われる化け物と戦って、
誰かを守ったり、
傷ついたり、
誰かを守れなくて泣いたりしていた。
目の前で不良たちが化け物に変わっていくのを見たとき……
自分が倒していた化け物……「変異体」が「テンタクルズ」という地球外生命体に融合された元人間だと知って、
きみはショックを受けて……
それでも、戦って誰かを守ることを止めようとしなかった。
どんな辛いことがあっても、僕の前では笑ってた。
僕が親に絶望したときは、一緒に泣いて、笑って、家族になろうと言ってくれた。
きみが子どもの頃から実験体として、兵器として生きてきたのを知って、僕は無力でも力になりたいと思った。
そんな大人たち……研究者の茨先生や、最初の実験体の黒鵜先生も必死になって人類が生き残る道を探した結果、罪を背負ったと知って、怒りのやり場がなかった。
全ては、1999年7月7日、終焉の王<アンゴルモア>が世界を滅ぼすのを止めるため。
機関の大人たちはきみを最終兵器として育て、
きみは全てを守るために自分を犠牲にする。
僕は、何も出来ない無力さを痛感し、無い知恵を絞り、どうにかあがいていた。
1998年10月
体育祭では、僕の幼馴染の寅子をライバル視して、決闘を申し込んだよね。
あれには驚いた。
「勝った側が学校のヒロインになる」とか、周りは勝手に盛り上がってたし。
結局、体育教師が変異体となって寅子を襲って、それどころじゃなくなった。
僕は必死にあがいて時間稼ぎしか出来なかったけど、きみはちゃんと寅子を守ってくれた。
その後、きみは寅子と友達になって、「初めての友達が出来た」って嬉し泣きしてた。
「じゃあ僕はなんなんだ?」って訊いたら、「家族」だって……。
1999年11月
きみは気が付いたらどんどん成長していった。
……いや、胸の話はともかくさ。そういうことじゃなくって。
クラスにも大分馴染んでいた。
最初は正直酷かった料理だって、寅子から習って上手くなっていった。
今度は僕に料理対決を挑んできたりして。
……あのときは黒鵜先生は無表情でも旨そうに食べていたっけ。
そう、先生は無口でもずっと、陰ながら僕たちを守ってくれていた。
長年きみを守ってきた先生と、きみとの間にある信頼関係に正直嫉妬さえした。
あの人を越えたくて、無謀な決闘をしたりね。
それでも先生は嫌がらず……むしろ嬉しそうに僕に守ることを教え続けてくれた。
タリム一人では勝てない強敵に、身体を張って勝機を作ってくれた。
最期に僕を見る目でわかったんだ。後は僕に託すと……。
だから、僕は先生以上の強さが欲しかった。
1998年12月
その後のクリスマスも大変だったよね。
きみが急にクリスマスの約束を真剣にしてきたと思ったらさ、
急に謎の転校生、アハトがやって来た。
校長が変異体になったり、タリム砲が撃てなくなったり、謎の黒い機密天使が代わりに変異体を倒したり……。
今思えば……
タリム砲はきみの「一番大事な気持ちを解き放つ武器」。
それまでのきみにとって一番大事なものは「みんなを守る使命」だった。
それが……この頃から少しずつ変わっていったのかもしれない。
ちょっとしたすれ違いと口論から、きみは家出した後アハトのアパートに住むようになって。
クリスマス当日、僕と寅子は体育倉庫に閉じ込められて、逢引きしていると誤解されて、きみは物凄くショックで、かつてなく怒っていた。
あのときは本当にきみが世界を破壊しそうな勢いだった。
結局、きみに執着したアハト……かつて機関が失敗作として廃棄した、黒い機密天使の策略だったんだけど。
僕たちは買っておいたプレゼントを交換して……
きみは僕に緑のネクタイを。
僕はきみに、「TALIM」と慣れない刺繍をした緑のチョーカーを贈った。
それから仲直りしてアハトをぶっ飛ばした。
それでもきみってば、アハトを赦してクリスマスパーティに誘うんだから……
お人好しにも限度がある。
それから、年越しは二人でのんびり過ごしたね。
一緒に初詣行って、きみはたくさんたくさん願い事をした。
いつも誰かを守ることばっかり考えて……そんなきみが犠牲になる平和だったら要らないって思ったよ。
1999年1月
それから……きみが変異体に体の動きを奪われた危機で、急に身体を乗っ取られて別人になった。
きみが普段使っている霊剣に宿る人格……千年前に世界を救ったらしい、「救世の巫女」エーリュシオン。
きみより遥かにワガママで子どもで手を焼いた。
千年前に世界を滅ぼそうとした王……先代の終焉の王を愛し、だれよりも彼の破滅と暴走を悲しんで……
この時代に蘇った彼を必死で止めようと、僅かな救いを与えようとしていた。
王は容赦なく彼女を殺した。
きみは彼女の想いを受け継ぎ、立ち上がった。
封印から解き放たれ、全てを薙ぎ払うほどの力を得た王。
強化装甲の力と、残されたエーリュシオンの力を使って、きみは一人で倒した。
僕はそのときなにも出来なかったのに、後できみは「僕のおかげ」みたいに言ってたのはなんでだろう?
あのとき、きみは僕に顔を近づけてなにか言おうとして、倒れてしまった。
1999年2月
それからきみは僕の前から姿を消した。
きみを探して夜の町を彷徨っていたら、変異体に襲われて……。
きみは怒りながら僕を助けてくれた。
それから、思いっきり二人で喧嘩したね。
僕はきみがなにも言わずいなくなったことを、
きみは僕が危ないことをしていたことに怒って。
それから、きみは今までの戦いで弱っていった身体機能を補うための機械を埋め込んだ上に、自分の寿命が残り少ないと言った。
持ちこたえたとして、七月までの命。
仮に1999年7月7日、終焉の王に勝てたとしても、きみの命は……。
あのときは二人で泣きながら抱き合ったり、恥ずかしさを隠すために殴られたりしたなあ。
僕は絶望しながら、無理矢理、次の夏に海に行くことや、春の花見や、来年の初詣の約束をした。
あのとき、どんな手段を使っても、きみだけは死なせないと誓ったんだ。
そのためにはどんな犠牲を払ってもいいと思った。
学校でマッドサイエンティストのアズニャル博士の襲撃を受け、
きみは正体を明かしてまでみんなを守ろうとした。
寅子は「僕の隣を取られた」っていう心の弱みに付け込まれて変異体にされてきみに怒りをぶつけたけど、きみはそれを受け止めて寅子を止めてくれた。
その後、邪推や無責任さからクラスメイトたちから好き勝手にきみを責められて、僕はつい本音を言ってしまった。
「もう、自分を犠牲にして戦うな。
こんな奴ら守る価値なんてない」って。
きみは本当に怒って、しばらく口をきかなかった。
それでも、きみは周りからの冷たい目線に狼狽えていた。
登下校や移動教室のときは、僕たちは黙ったままでもずっと一緒に歩いた。
ときどき足を止めてうつむくきみに、僕は後ろを向かず手を出して、きみはそっと手をのせて、僕はその手を引いて歩いた。
きみはそんな僕に
『馬鹿だなあ。私がなんで戦ってるか、全然わかってないんだもん』
『命を守ってもらう価値がない人なんていないよ』
……なんて言っていたけど。
それじゃあ、駄目なんだ。
誰もきみを守れない。
その後、僕は自分の願いを叶えるために、究極の変異体を創ることを望んでいる博士の手を取った。
人であることを捨て、終焉の王になる。
大した取り柄もなかった平凡な僕が世界を滅ぼす存在になるなんて……
いや、平凡だったからこそ、きみと出会って、きみに惹かれ、守られるだけの自分の無力さと、きみだけに犠牲を強いる仕組みを誰よりも呪ったからか……。
1999年6月
黙示録が示す、終焉へ至る七つの予言。
第一のラッパ。地上の三分の一、木々の三分の一、すべての青草が焼ける。
第二のラッパ。海の三分の一が血になり、海の生物の三分の一が死ぬ 。
第三のラッパ。ニガヨモギという星が落ちて、川の三分の一が苦くなり、人が死ぬ。
第四のラッパ。太陽、月、星の三分の一が暗くなる。
第五のラッパ。いなごが額に神の刻印がない人を5ヶ月苦しめる。
第六のラッパ。四人の天使が人間の三分の一を殺した。生き残った人間は相変わらず悪霊、金、銀、銅、石の偶像を拝んだ。
第七のラッパ。この世の国はわれらの主、メシアのものとなった。天の神殿が開かれ、契約の箱が見える。
七つの予言は、言い換えるなら終焉に至るまでの七つの封印。
人類は地球を穢すことで第三までの封印を解いた。
先代の終焉の王が四つ目の封印を、テンタクルズが五つ目の封印を解いた。
そして、人類を裁く天使たちの目覚め。
1999年7月
人間であることを捨てよう。
その代価として「存在掌握」の能力を得た。
それを使って自分がこれまで生きてきた痕跡すら消した。
絶望しかない世界なんて要らない。
予言に示された最後の鍵を開けよう。
世界が終われば……
僕が……いや、俺が……真の終焉の王として覚醒出来る。
神に等しい力で願いを叶えることが出来る。
それをきみは望まないと……全力で止めると知っている。
自分の命の全てを懸けて……。
きみが自分の命を犠牲にするなら、僕はそれ以外の全てを犠牲にする。
天使たちを掌握した。残る鍵は一つ。
終焉のときは近い……
待っていろ、タリム。
次回予告
「最終回・届け、最後のタリム砲」
大事なひとたちのために世界を守る少女。
少女のためだけに世界を滅ぼす少年。
二人の願いの行方は……?