【cinema】禁じられた歌声
原題はTimbuktu、アフリカはマリの都市名です。この邦題は意訳なんですが、何だかある一面しか捉えていなくて、映画のテーマからは少し逸れているような気がします。ここは素直にカタカナ原題表記の「ティンブクトゥ」でいいやんと私は思うのです。禁じられたの歌だけちゃうし、そもそもメインキャラクターのキダン、サティマ、トーヤ一家の末路にそれは関係ないし。
これはティンブクトゥという古都がイスラム原理主義者たちに支配されていく悲しい様が描かれている。市井の人々は家の中でも歌を歌うことを禁じられ、タバコもダメ、女性は公の場では手袋をはめ、顔を隠さなければならず、誤って人を殺めてしまったキダンは、まず相手側の家族の許しを得なければならず、元々8頭しか持っていなかった牛を40頭差し出すように支配者たちから求められ、いずれも叶わなかった彼は、死を宣告される…。
興味深いのは、今のご時世どこにでもスマホがあって、ここでもスマホは必需品ということです。こんな砂漠のど真ん中でも。少し前では考えられない世界が、もうこんな僻地にまで浸透しているんだ…。
救いようがなく、誰も希望を持つことなんてない苦しい話。どうすることもできなくて、ただただ、それを直視しなければならない私たちは、この後どうしたらいいんだろうと呆然としてしまう。
今もイスラムの世界では、原理主義を良しとする輩が跋扈している。彼らの中ではそれが正義で、何も悪いことをしているとは思いすらしない。宗教(といかなくても思想や主義もか)が怖いのは、多面的に物事を見ることができなくなる点だと思う。自分と他人とはどう足掻いたって違うのだし、彼らが良しとしていることは、誰かにとっては、何のプラスにもならないこと、それを強要することは、押しつけ以外の何物でもなく、悲劇しか生まれない。何かを一心に信じたことがない私が言うのも説得力がないけれど。この映画を見て、感じたことは、そんなことでした。
毎日、悲惨なニュースが報道される。もうちょっとやそっとのことが起きても動揺しなくなっている自分がいる。私たちが普段何気なくできていることが禁止されている国や地域が、世界中には無数にある。そういうことを再認識させられる映画でした。
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