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【cinema】フレンチ・ブラッド

myfrenchfilmfestivalばかりですが。

マルコは正真正銘のスキンヘッド。仲間のブラゲット、ギィ、マルビンと共に、アラブ人を襲い、極右的メッセージを街に貼りまわっている。だが、やがて「憎悪」に支配された自分自身に疲れを感じるように。止めようもなく沸き起こる暴力、怒り、愚かさ。一体どうしたらそれらを自分の中から消すことができるのか? 「ならず者」から「善良な人」へと、変わろうとする男の物語。
スキンヘッドたちの暴力的で刹那的な日常を通し、80年代後半から2015年初めの同性婚の合法化の大規模な反対デモまでを描く社会派映画。フランスでは予告編が公開されると同時に大きな議論を巻き起こし、多くの映画館が理解不足から上映を自粛するなどの措置をとったことでも話題になった。(公式サイトより)

苦しい、とても苦しい映画。欧州ではこういう時勢だから上映が難しかったのかもしれないけれど、ちゃんと見たら、これはある意味で救いの映画だと私は感じた。でも一方で、エンディングに流れる音楽の妙な軽快さは、変わったこそのマルコの虚しさ、フランスだけでなく、欧州全体に広がる虚無感を表しているのかなとも思った。

あんなに暴力的で、極右に染まっていたマルコが、なぜ変われたのか。それは明確には説明されていない。激しい動悸に襲われた時に助けてくれた薬局の薬剤師の優しさに触れたこと。これは大きな要因だったと思う。彼が激しい動悸、胸の痛みを感じたのは良心からくるものなのか、ただ無理が祟ったのかはわからない。でも他の者にはそれがなく、マルコだけだった。彼はこの時点で救われたのかもしれない。しかし、昔の仲間を裏切ることになるという点で、彼はまた違う苦しみを背負うことになる。

1985年から2015年までの30年間。マルコは変わり、周りは変わらなかった。いや、暴力という手段ではないにしても、状況はより複雑化し、悪化したのかもしれない。それはもう「若気の至り」では片付けられるものではなくて、年を経る毎に解決困難で、彼らにだけ都合のよい思想になっていくように思う。極右勢力の発する言葉、エネルギーは、負でしかない。彼らの辞書に「助け合い」や「共存」「寛容」の文字は見つからない。なぜそこまで他人を憎むことに熱くなれるのだろうか。彼らに疚しい点は1つもないんだろうか。憎悪には憎悪でしか返ってこないのに…。映画を見ながらひたすらそう感じた。

でもマルコのような人もいる。それが唯一の希望であり、救いであると思ったんだよね。

ラストで自分の前妻と娘が同性婚反対の横断幕を掲げ、練り歩く様を見たマルコは、やりきれなかっただろうな…

決して他人事として扱いたくないテーマ。映画の冒頭にもあったが、実話に基づいたストーリーとのこと。マルコのような人(最初から極右でなければもっといい)が、もっともっと増えるといいなと思った。あと「純粋なフランス人」って何なんだろうなと。

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