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とても気まずい後味しか残さないのに、見てよかったドイツ映画。

キャスティング」ドイツ🇩🇪

ファスビンダーの『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』のリメイクに挑戦する女性演出家ヴェラ。オーディションを繰り返すが、撮影初日を前にして主役が決まらない。スタッフの不満が募る一方、名女優たちの相手役を務めるゲルヴィンはチャンス到来を感じ取る。複層的な原作に対応しながら独自の視線を展開していく本作は、権力や欲望に支配された人間関係の深淵に深く切り込む。(euフィルムデーズ2018公式サイトより転記)

ファズビンダーのその作品、知らない。でもなんかスゴい作品なんだなというのはわかる。演出家のヴェラの意気込み具合やら読み合わせに来る女優陣の感じから。

この映画を見ていて、昔見たスウェーデン映画「ゴシップ」を思い出した。こっちは、グレタ・ガルボの代表作「クリスティナ女王」のリメイクのオーディションに来る女優10人のやり合いが見ものなんだけど、このドイツ映画は、女優同士の諍いはテーマではない。

とにかくヴェラは、どの女優も気に入らないのだ。完璧を求める。でもその「完璧」が何なのか、彼女自身もわからないものだから、製作スタッフは苛立ちを隠せない。

女優陣のそれぞれの名前はあまり重要じゃないような気がする。多分みんな大御所と呼ばれるような位置づけの女優たちばかりなんだけど、本人たちからすると「枯れかかった」、もう一花咲かせたい面々ばかりなのだ。(ドイツ映画を見ていたら、あ、この人見たことあるなっていう人ばかり)

上のどの女優もペトラになれなかった。彼女らが読み上げる台詞が虚しく響く。どんなに名の通った女優でもヴェラにはピンと来なかったのだ。

で、ネタバレになるけど、敢えて上の彼女、タマラ・レンツキが選ばれたことをここに書く。これもこの映画からするとあまり重要じゃないからだ。

この映画は、文字どおり「キャスティング」の難しさを描く。私、数々の映画を見てきたけど、製作の裏側がこんなだとは全く想像していなかった。ドロドロとか陰湿とかそんなんではなく、ただひたすら殺伐としているのだ。

いっちばんドン底とてっぺんを味わったのは、上のどの女優たちでもない。読み合わせ役で駆り出されたゲルヴィンだ。

彼は役者一筋で生きるには程遠く、エキストラや読み合わせ、配達員などのバイトを掛け持ちしながら日銭を稼ぐ。そんな彼が、ペトラの相手カール役の俳優が出られなくなり、準主役をもらえることになるかも⁉︎となるんだけど…。

非情。とにかく非情だ。彼に対する仕打ちは。

彼の好意や善意はこれでもかとズタズタにされる。彼がヘタなんじゃない。でも彼には運も含めて、圧倒的な力(パワー)がないのだ。誰が悪いとか悪意を持っての仕打ちではなく、この世界ではそれが当たり前なんだと思う。なんていうのか、人間関係というよりは、権力を前にする人々をシビアに描いていたと思う。そこに信頼という言葉は一切存在しないようにも感じた。

ラストがめちゃめちゃ哀しくて。

男は翻弄されるだけ翻弄されて、持てる限りの尊厳さえも踏みにじられて、やっと掴んだのは、超ワキ役…。

それでも私が見てよかったと感じたのは、何故なんだろう。後味は悪いのに、「良いもの」を見た、とたしかに思ったのだ。

それぞれの人々が抱えている苦悩をこういうかたちで表せるんだと。

必要以上に「いい人」であっては駄目なんだと。

この人間模様は、難しいけれど、観ている者が皆共感できる。ゲルヴィンにはもちろん、他に翻弄される制作スタッフや役者達の気持ちもめちゃくちゃわかるし、気がついたら自分がそこにいるかのようだった。映画製作に限らず、どんなビジネスシーンでも、いや、ビジネスに限らず、それは共通するのかもしれない。

ドイツの芸能事情に詳しい人なら、それぞれの女優陣がどんな人で、彼女らの代表作やらバックグラウンドを知っていて、もっと楽しめると思う。日本でもやったら面白いのに。

とにかく良い映画を観れた。うん、よかった。

2018年57本目。EUフィルムデーズ2本目。京都文化博物館にて。

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