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涙を流すってこういうことなんだ。

エクスキューズ・マイ・フレンチ

このタイトルは英題 "Excuse My French"(=ちょっと言いにくいことなんだけど)をカタカナ表記したものです。原題は同義語のアラビア語です。

映画の中では、公立小に転校したハーニーが、新学期のクラスの自己紹介の際に、親の職業を先生に尋ねられて、各々が口を揃えて、その枕詞を唱えるんです。

「すみませんが、配管工です」

「すみませんが、屑鉄拾いです」

「すみませんが、今は無職です」

で、ハーニーの番になり、彼は答えます。

「すみませんが、銀行員です」

そして先生が「すみませんが」じゃないだろ〜!とツッコミを入れるところから、ハーニーのあだ名が「すみませんが」君になるんです。

そんな彼は、父が外資系銀行に勤める、マルーン5やマンチェスターユナイテッドファンのいわゆるお坊ちゃんで、イスラム教徒ではなく、キリスト教徒、正しくはコプト教徒なんですが、父が急死し、経済的理由から無償の公立校に転入することになってしまい、教師、生徒含めてほぼ全員ムスリムのため素性を隠すことにするんです。そんな彼の成長物語がこちら。

宗教が異なることはもちろん、育った環境や流行りのものなど何もかもが違う世界に飛び込んでしまった彼は、それでも必死に、皆からバカにされまいと色々頑張るんです。いや、バカにする方が本当の「バカ」だ! だって彼は何にも間違ったことはしてないし、どんな時でもめげずに立ち向かう姿に、私はとても励まされたよ。

さて、この映画では色んなポイントがあるんですが、それを挙げてみたいと思います。

①イスラム圏における少数派のキリスト教徒の置かれる立場

少数派といえどもエジプト国民の約1割がコプト教徒なんだそう。映画の中でも互いの気まずさが見てとれるように、腫れ物に触るような感じだったり、実際イスラム教徒によるキリスト教徒への差別や事件も少なくないみたいで。ハーニーも必死でコプト教徒って隠すけど、バレてしまった時、思いきりハブにされてしまう。

ちゃんと調べていないからわからないけど、コプト教徒の方が裕福な家が多いのかな。元国連総長のブトロス=ブトロス・ガリもそうだったとのこと。そういう社会的格差も宗教差別につながっているのかなと。

②女性の扱いの感覚の差

化学の先生ネリーが、少年マンガとかにありがちな超美人教師で、クラス全員、彼女の虜になるんです。でもフツー、いくら美人だからって襲わないよね? これは映画の中でも一大事なんだけど、ワルの上級生達がその女性教師をレイプするという事件が起こり、先生は学校を辞めてしまう。で、そのワル達も退学処分になるんだけども、え? 逮捕は? そんなに軽い扱いでええの? という感じで。実際この学校で女の先生自体がほぼ皆無。そのネリーにしても服装、髪や肌まで欧米人のようなスタイルで、それに対して、ハーニーが注意の意味も込めて「先生、スカート長いの履いて下さい」って言うシーンがあるんです。で、先生は怒る。「あなたもそんな風に思ってるのね!」と。けれど、彼は否が応でも知らされていたんです、先生が襲われることを…。彼なりに伝えたかったけど、伝えきれなくて…。

何て言うか、イスラム社会における女性蔑視というのか、こんな中坊までもが先生を性的対象として見て、罪まで犯すもお咎めもナシがフツーって、感覚が違いすぎる…。

③涙を流す時、それは本当に失ったものの大切さがわかった時

ハーニーは大好きな父を突然失います。あまりに突然のことすぎて、彼は涙すら出なくて。

ちょっと好きだったテニス仲間の女の子に聞かれる。
ハーニー、パパがいなくなって泣いた?って。

あれ?泣いてない。何で涙が出ないんだろ。ペットのカメが死んだ時も泣けなかった。

幾度となく嫌がらせを受けたり、カルチャーショックに直面するも、彼は泣かない。神様を心の拠り所とし、自ら考え、動いて、乗り越えていくんです。

そんな彼が涙を流す瞬間が来ます。そして、彼は言う、「僕、涙が出たよ」って。

日頃、よく涙を流す私は、彼のようにはなれないけれど、ハッと気づかされた瞬間でした。

映画の主題からは少し離れているかもしれないけれど、ハーニーが自分で、自覚して、変わった瞬間だったんだなって。

ガキ大将アリーや公立校で最初に友達になってくれたモーメン、いろーんな子達がいて、ハーニーは、もみくちゃにされて。

きっと大人の世界を描けばシリアスすぎる展開だけど、子供たちの目を通して描かれたエジプト社会は、コミカルに、でもしっかりとあらゆる社会問題を捉えながら、私たち観客に訴えかけていると思いました。

そして、ハーニーの家の中のブルーがとても印象的でした。

2018年38本目。イスラーム映画祭2本目。元町映画館にて。

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