たまごかけごはん
まめきちは母の元気がないことをすぐに察する。
ぴこーんと察した日にはひたすら優しく接する。
泣いちゃった日にゃあ、一緒になって泣いてしまう。
きのう、また嫌なことが重なった。
厄年は過ぎたはずなんだけどな。
わたしが泣くときは決まって、もやもやした気持ちを溜め込みすぎて吐き出せない@ホルモンバランスの崩れたとき、だ。
2つが重なるともう気持ちがマグマのようにこう、ドッカーーーーーンとな。
きのうは外出していて、さすがに外で号泣するわけにはいかず、帰り道をてくてく歩きながらひたすらぼーっとした。
マスクがあって良かったよ。誰か金魚でも投げたら入るくらいにはぽかーんと口開けてたからね。
ため息をついたり、まあしゃあないか!と前向きになったと思えばまた無理~!となったり、忙しい不審者寄りの帰り道だった。
途中、歩いて帰れる距離を「もう無理だ」と思いバスに乗って帰った。
ふとイヤホンをしていないことに気づく。
わたしの外出には絶対欠かせない音楽。
音楽って泣きたくなりませんか。
涙を誘導する材料すぎませんか。
シャッフルしてるとはいえ、わたしのだいすきなマカロニえんぴつや星野源、aikoが流れるわけでもなく、元気になれそうなELLEGARDENが流れるわけでもなく、わたしのiPhoneが選んだのは菅田将暉の虹だった。
そう、
選ばれたのは虹でした。
いやああああ死んでしまううううう!!!
そんないきなり「泣いていいんだよ」なんて言われたらバスの中で号泣してしまううううう!!
急いでスキップしたら、「何も持たずに」ときた。
RADの愛にできることはまだあるかい、だ。
天気の子の「ここで泣けよ」のシーンで流れる、あの曲だ。
新海誠が自信を持っておすすめしているんであろうあのシーン。
もう泣けということなのか。
停留所について運転手さんに「ありがとうございます」を言って降りる。
家までは5分。
泣くな、泣くなわたし。
この頃にはサウシードッグのいつかが流れていて、また泣きそうになっていた。
もうもはや何が流れても泣いただろう。
にしても選曲どうしたんだよiPhone。
恐るべしAI。
なんとか泣かずに家に帰ることができた。
ほっとしたら一気に疲れてしまい、ベッドに転がる。
まめきちが帰ってくるまでおよそ1時間。
なんとか「ママのメンタル」に戻さなくてはいけない。
ただただ音楽を聴いて、Twitterランドでお友達のお話を見たり聞いてもらったりして1時間が過ぎた。
「たっだいま~!!!」
もう第一声でホッとする。
なんて間抜けな愛らしい声なの。
手を洗って3回うがいをしたまめきちが、「ママ見て!!!」と言い、おそらくは冬休み前になんとかしなさいと言われたであろうプリントの山をゴソゴソとかき混ぜ出す。
こんなに入るんだ今の学校の引き出し。
プリントの中からドヤ顔で1枚のテスト用紙を取り出すまめきち。
いやどう考えたってこの流れは100点満点じゃん?
4点だった。
100点満点中4点だった。
「4点ぼくだけだった!!!いやあむつかしいね!」
愛してる。
もう本当に愛してる。
思わず笑いながら泣いてしまった。
愛おしすぎて泣いてしまった。
「たまごかけごはんにしよっか!」
まめきちが言った。
え…いやご飯はこれにするって決めたものがあるんだけど…。
母ちゃんこれでも色々考えてるんだ。
でもまめきちは続ける。
「たまごかけごはんにしよう!おかずは冷凍のたこ焼きにしようよ!」
ああうん。
そうだね。
なんて優しい子なのだろう。
「ありがとう、ママが辛いの分かってくれたんだね」
笑顔で抱きしめようとしたら
「給食でローストチキン食べてきたからママのごはんはたまごかけごはんでいい」
なんだろうこの気持ち。
母は言う通り「たまごかけごはん」を作り、たこ焼きを温めた。
インスタントのお味噌汁も作った。
とても質素なごはんだったけど、まめきちと笑いながら食べるきのうの夕食はとても美味しかったんだ。
慰めてくれてありがとう。
笑ってくれてありがとう。
たまごかけごはん、おいしかったね。
なんでもないことがしあわせだよなあ。
何年も前にそれを発見した虎舞竜はすごいんだな。
きょうは「とりあえず魚以外」のオーダーが入っている。
魚解凍してあるのになあ。