口裂け女(リアルタイム)

先日、アマプラで「コワすぎ」の第1話、「口裂け女 捕獲作戦」を見た。めっちゃおもしろかった。「コワすぎ」は全て見ることにした。ありがとう、配信。


「1979年、日本中を恐怖させた口裂け女の都市伝説」みたいなナレーションがあった。

思い出した。「あの日」を。
口裂け女の噂が文字通り、走り去って行った日の記憶である。

俺の記憶だと小学5年生だったから、西暦で言うと1980年だったのだと思う。

福岡県の田舎、筑豊という治安のよろしくない地域のある町での話である。

ある朝。季節は秋だった気がする。初冬だったかもしれない。
教室に入る。朝の会の前のお喋りタイム。普通だと昨日見たテレビの話とかする。

その朝は明らかに教室の様子が違っていた。
皆がザワザワしてた。

「聞いた?くちさけおんなが来るって」
「くちさけおんな?」
「くちさけおんなが走ってくる」

みたいな話だった。

朧げな記憶だが、その朝に聞いた口裂け女の情報は
・マスクをしている。
・私キレイ?と聞いてくる。
・答え方を間違ったら耳あたりまで口が裂けた顔を見せてくる。
・整形手術に失敗したので口が裂けている。
・めっちゃ足が速い。100mを6秒で走る。
・口裂け女は岡山から走り始めて、昨日、山口県から門司港に来て、今は北九州市を走ってて、今夜8時に(俺が住んでた)A町の〇〇公園に来る。

だったと思う。

後に「ポマードと言う」などの対処法を知るが、その朝、その日はそんな情報は無かった。


怖かった。

いや、それ以前に「あなたの知らない世界」でビビり散らかしてたし、70年代はUFOや宇宙人、ネッシーやツチノコ、そして超能力などのオカルトブームはあったのですよ。

そういうものより口裂け女(の噂)は桁違いに怖かった。

前述したオカルト系は全てテレビや雑誌などのメディアを通じて知った。

でも口裂け女は「口述のみ」だった。しかも大人からではなく同学年の子どもの口からそんな怖い噂を聞くなんて。

「保障」がされていない。

テレビ発なら保障がされてるんですよ。画面からは出てこないから。

しかし。口裂け女はいきなりリアル社会での口述での話である。
しかも、既に近くまで来ている。

一番怖かったのは「足が速い」という情報だった。
そもそも、オーソドックスな日本の幽霊には足が無い。
「足が速い」という情報には「足がある。こいつはガチのやつである」という意味合いも入っている。
地面を走り、確実に近づいて来ている。


朝の会。担任教師は普通に連絡事項などを伝えた。

休み時間、昼休み、口裂け女の話ばかりしていた。

そして帰りの会。俺を恐怖させることが起こった。

担任教師が真面目な顔で、
「えー、今日はみんな、口裂け女の話をしてるみたいだけど、口裂け女は、いません」
と言ったのだ。

それまでは「子ども同士の中での噂」だった。
そんなことに大人が、しかも真面目なトーンで「いません」などと介入してくることはなかった。

この、担任教師の真面目なトーンでの「口裂け女は、いません」発言により、「これは本当に、ガチのやつだ」と恐怖した。

朧げな噂話を大人が正式に否定することにより、口裂け女は明確な形を持った。
それぞれの子ども達の頭の中に。


その日、その夜のことは覚えていないが、怖かったので親にも言わず(口に出したら明確化するので)、外出ももちろんしなかった。


更に俺を恐怖させたのは翌日だった。
翌日、昨日と同じく皆が口裂け女の話をしてるだろうと教室に入った。

誰も、口裂け女の話をしていなかった。
翌日だけではない。翌日以降、誰も口裂け女の話をしなかった。
口裏を合わせたように。
俺も口裂け女の話を言い出せなかった。怖かったし。

忘れたい。皆が忘れたいという気持ちだったのかもしれない。


それが「あの日」の記憶である。
文字通り、口裂け女の噂は1日限定で「走り去った」のだった。


それから半年か1年経った頃。
テレビ番組(特撮モノの何かだったと思う)や雑誌に口裂け女が出るようになった。
口裂け女関係のガチャガチャもあった。
「ポマードと3回言う」などの口裂け女への対処法もいろいろ出来上がっていた。

口裂け女は全国区の話になった。
商品化というかグッズ化というか、雑誌にも絵が描いてあったし、明確な形になることで「あの日」の恐怖は消えた。

口裂け女は本当にいないんだな。

そう安堵すると同時に、
俺は、というか俺たち子どもには「今さら?一度噂になったアレを?」という気持ちもあった。

俺たちの方が先に聞いたもん!みたいな。安心した証拠である。


もし口裂け女が全国区にならず、「あの日、あの田舎町で1日だけ聞いて誰も話さなくなった噂」で終わっていたら、どんなに怖かっただろうかと思う。
ありがとうメディア。


今はネットがあるので口裂け女について調べることができる。
ウィキペディアにも「1979年」と書いてある。

でも、俺は小5の春に隣町の小学校に転校して、あの口裂け女の話をしてた教室の記憶は転校後の学校なので1980年のはずなんよなあ……
とも思うが、そこはまあいいや。

最初の「コワすぎ」の話に戻る。
俺は「コワすぎ」の中の口裂け女は怖くなかった。
今まで口裂け女の映画とかあったと思うが、怖いので見てなかった。
今回、初めて口裂け女の実写モノを見た。


口裂け女は小学生の俺が脳内に描いた口裂け女が一番怖かったので、実写化されるとそんなに怖くない、というか安心する。

小説が実写化された時の、「あの登場人物がこの俳優?違うくない?まあいいや!」
という気持ちに似てる。


明確な形として見せることで怖くなるもの、逆に安心するもの、そういうのは人それぞれにある。

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