力士から恫喝された話

これはショックすぎたのか、記憶から消えていたのだけど、ふと思い出したので書く、思い出話です。


通ってた公立小学校に何故か立派な土俵があった。

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こういう。ちゃんと土が盛っていて、屋根付きの。

昭和の学校にはどこにも普通にあったものなのかは分からない。
でも田舎の公立小学校の校庭の隅の方に、何故か立派な土俵があった。

でも、誰もその土俵で相撲をやったりはしてなかった。
教師から禁止命令が出てたわけではなく、相撲をやろうとは思わなかったから。
相撲はテレビで見るものだし…みたいな気持ちがあった。
それになんか…痛そうだし…


元々あった土俵をリニューアルしたのか、初めて学校内に土俵を立てたのか、記憶が定かではないのだけど、

「土俵開き」というイベントが、あった。

記憶では俺が小3か小4だったので、1979年か1980年のどちらかです。

その「土俵開き」にホンモノの力士が来たのですよ。

当時のスター力士が。
何故かやって来たのです。


当時、現役の大関だった、初代貴ノ花が田舎の小学校の土俵開きにやって来た。

カッコイイですね。初代貴ノ花。

この人です。
若貴兄弟のお父さんですよ。

調べても出てこないので、小学校名を書いておきますが、
福岡県の田川郡にあった、金田(かなだ)町立金田小学校でした。

もう田舎の過疎化で統合されてこの小学校は現在、無いようです。


そんなド田舎の小学校に当時のスター力士、大関貴ノ花が何故やって来たのか、理由は分からないのだけど、本当に来たんですよ。

大人もたくさん見に来てたと思う。

当時のスポーツで人気だったのってダントツでプロ野球か大相撲だったし。

子どもの俺も祖母と一緒に大相撲中継を見てた。


ガキだからホンモノの大関貴ノ花を見て
「ホンモノだ〜!」とか「ホンモノのチョンマゲだ〜!」とか思った。

土俵開きで何をしたのかよく覚えてないのだけど、貴ノ花が四股を踏んだりしたのだと思う。


貴ノ花の身体に触りたかった。

テレビで大相撲中継を見てたら、いつも、取り組み後に去っていく力士の身体に客がペタペタと触っていた。

あのペタペタをやりたいと思った。
スター力士の大関貴ノ花にペタペタをやりたい。

アホの小学生の俺は、どうしても力士にペタペタがやりたかった。

アホの小学生はアホなりに考えた。
こういう、スターが学校にやって来て、ひと仕事終えて、すぐ帰るか?

いや、こういうのは帰る前に校長室に行くはず。
校長室でお茶を飲んだりして帰るのだ。校長先生もお礼を言うだろうし。

土俵開きが終わってすぐ、友達と校長室の近くに行った。

そこに力士はいた。
校長室前の廊下に。

しかし、残念ながら、大関貴ノ花はいなかった。
スター力士だから、すぐ帰ったのだろう。

校長室前の廊下にいたのは2人の、知らない力士だった。

それが付き人なのか、有名力士なのかは分からなかった。
チョンマゲだったのかも覚えていない。

でも初めて目の前で見る、ホンモノの力士だ。

めっちゃデカい。
小学生から見たら更にデカい。

まわし姿とか半裸ではなかったけど、あの…浴衣?みたいなのを着てる力士が目の前にいる。

九州場所の会場でもないのにホンモノの力士が目の前にいた。
 
もう、誰でもいい!
ペタペタ・チャンスだ!今しかない!

「力士」というか、当時の小学生からすれば「お相撲さん」である。

強く、広い心を持ち、弱い存在である子ども達には優しいはず。
それを疑わなかった。


目の前のお相撲さんの身体に後ろからペタペタをやった。
友達と一緒に。

ペタペタというか、触ったのは数回。数ペタである。

そしたら。

そのお相撲さんの1人が振り返り、小学生の俺にこう言った。
言った、というより、怒鳴った。


「ベタベタ触んな!コンガッキャア!」


めっちゃ怒ってて、怖かった。
え…テレビと違うやんか…

「コンガッキャア!」という言葉を初めて聞いた。
ドラマなどで聞いたことはあった。

「コンガッキャア!」とは「このガキが!」という意味である。


ショックすぎて、大相撲好きの祖母にも、母親にも「コンガッキャア事件」は言わなかった。


ただ、このコンガッキャア事件を小学生で体験した俺は、あることを思うようになる。

相撲とか、野球とか、そんなスポーツだけしかやってない人間が、

人格者なわけないやん。

テレビの中の姿と全く違うやん。

そんなデカい身体なのに、普通の人より強いだろうに、

小学生に全力で怒らんでもいいやん。

その言葉が「いいかい、ちびっ子の諸君。力士とはいえ、人の身体にペタペタ触るのは失礼だよ」という教育的な言葉でないことは、
アホの小学生にも分かった。

単純に、ガキにイライラして怒鳴ったのだ。


ベタベタ触んな!コンガッキャア!


強い者は小さく弱い者に優しい、
そんな、「そうであってほしい」という庶民の勝手な願望に基づいた

スポーツ選手、強い人は人格者説を、未だに俺は信じられない。





おわり。

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