評価されることのない偉大なキーボード奏者
2020年7月の「ギターマガジン」でこんな企画があった。
ギタリスト555人が選んだ「ニッポンの偉大なギター名盤 100」
100位〜1位までが紹介されているのだが、1位以外の結果は省く。
1位は
Charのファーストアルバム「Char」。
このアルバムが何故1位なのか、そういうことも省く。
このアルバムはCharのソロ名義として発売されているが、
実質的には「Charというバンドのアルバム」である。
Char自身が「ファーストアルバムが自身の最高傑作になるつもりで作った」と語っているこのアルバム、
このアルバムを作る上でどうしても欠かせないキーボード奏者がいた。
佐藤準(さとう じゅん)
というキーボード奏者である。
「B'z・松本孝弘の客観的なスゴさ」というnoteにも書いたが、
日本において「歌を歌わない楽器演奏者」は認識すらされにくい。
理由は「楽器の音は(ボーカルの声に比べて)聴き分けることができないから」である。
このnoteは
佐藤準というキーボード奏者の名誉のために、
いつか「佐藤準」という名前が報道された時のために、
「いや、違うよ!佐藤準さんはそういう人ではないよ!」
ということを言い残すために書いている。
ものすごく不謹慎なことを書くが、
その「いつか」というのは
「佐藤準さんの名前が次にニュースで報道される時」というのは
訃報の時である。
(佐藤準さんは現在、69歳でめっちゃ生きている)
その、いつか分からない(俺が先に死ぬ可能性もある)
訃報の見出しは次のようになる可能性があるのだ。
「キーボード奏者の佐藤準さん死去。おニャン子クラブ『セーラー服を脱がさないで』の作曲者」
佐藤準さんはキーボード奏者であると同時に作曲者、編曲者でもある。
作曲者・編曲者として関わった楽曲の中で、
おそらく
おニャン子クラブの「セーラー服を脱がさないで」が一番有名なのだ。
情けないことに、この日本では
Charのファーストアルバムに収められた
「SMOKY」や「Shinin you, Shinin Day」等の名曲より、
「セーラー服を脱がさないで」の方が有名なのだ。
佐藤準さんが「『セーラー服を脱がさないで』の作曲者」として国民に紹介されてしまうのだけは、俺はイヤなのだ。
秋元康プロジェクトの夕焼けニャンニャン、おニャン子クラブ、「セーラー服を脱がさないで」は、
(裏ではなく)テレビというメジャーな場所で、未成年女子を「性的商品」として売ることを始めた、
恥ずべき作品である。
日本人のロリコン趣味も合わさってか、それらが話題になったことも、商業的に成功してしまったことも、
恥ずべきことである。
秋元康はプロデューサーとしての才能はスゴイのかもしれないが、
日本の恥である。
秋元康の話はもういいや。
このアルバムの話に戻る。
Charという存在を知った時、その一番有名な曲である「SMOKY」を初めて聴いた時、
「いや…なんで後半がギターソロじゃなくてキーボードのソロなの?もったいない!」
と思ったが、今は「後半がキーボードソロ」なことに納得しています。
ギタリストCharは幼少期からピアノを習っている。
ギタリストである前に優れたピアニストでもあった。
以下のCharの発言は俺が過去に「ギターマガジン」等のインタビューで読んだものなので、ネットで検索しても出てこないかもしれないが、確かに言っていた。
「俺はギターもたくさん練習してたけどピアノの練習も毎日やってた。中学生の頃は毎日ギターの練習を5時間、ピアノの練習を5時間やってて」
「ピアノで音大に進学することを考えてた時期もあったし、クラシックの指揮者になる道も考えてたんだよね」
「でも高校生の頃かな、準(佐藤準)と出会って。こんなにピアノが上手いヤツいるのかってビックリして。絶対に勝てねえと思ってピアノはあきらめた」
「当時、ジェフ・ベックがギターにキーボード絡ませた斬新なアルバムを出して(第二期ジェフベックグループ)、衝撃を受けて。準に言ったんだよ。これからはこの音だよ!一緒にこういう音楽やろうよ!って」
「で、準と一緒にバンドやっていくことになるんだけど、スモーキーメディスンとか。解散しちゃったけど」
「デビューが決まって。そのデビューアルバムのバンドメンバーには佐藤準は欠かせなかった。準がいればあとは誰でもよかった。あとのメンバーは俺が外国人を集めたんだけど」
第二期ジェフベックグループはこういう音です。
第二期ジェフベックグループをCharがカバーしてる動画。佐藤準も演奏してる。
3分半過ぎから佐藤準のピアノソロです。
「セーラー服を脱がさないで」の話に戻るが、あの曲の作曲について、
佐藤準は以下のように語っている(ウイキペディアより)
─ ある日、日活スタジオで別のレコーディングをやっているときに石田さんから電話がかかってきて、「オールナイターズの高校生版みたいな新しい番組をやることになった。だからお前、コニー・フランシスみたいな曲を書け」とか言われて。それが「セーラー服を脱がさないで」です。— 佐藤準、『ニッポンの編曲家』──
完全に「仕事」としてやっている。
佐藤準の公式ホームページには
「セーラー服を脱がさないで」の作曲については、何も書いていない。
楽器演奏者、昭和の日本ロックの関係者がどういう事情の中で(70〜80年代に)活動を行っていたか、
それを現すエピソードとしては
ロックバンド・はっぴいえんどのドラマーが職業作詞家に転向し、
「木綿のハンカチーフ」が大ヒットした時に、日本ロック界の人たちから「裏切り者」と言われた。
Charのファーストアルバムが全く売れず、ギターアイドルとして芸能界で活動してた時に
「悪魔に魂を売った」と言われた。
などがある。
日本のロック界はとても閉鎖的で、カネになる気配が全くなく、
歌謡曲のようにヒットすることを「恥」と捉える風潮もあった。
ロックの人たちは(サザン以外)テレビの歌番組に出演してくれなかった。
実際、70年代の時点で楽器を持ってバンドをやっていた人たちの出自を調べると、実家の太い人が多い。
そうではない、経済的に余裕がない家庭出身の人は歌手になるか、
フォークギター1本で音楽活動を始めている。
そういう、バンド、楽器演奏だけでは食っていけないので、
歌謡曲の人たちにロック方面のミュージシャンが楽曲を提供することも多かった。
その「仕事」の1つです。
偉大なキーボード奏者、佐藤準さんの「セーラー服を脱がさないで」の作曲は。
いつか、佐藤準さんの名前が話題になった時、何人かがこのnoteに辿り着いて
「佐藤準さんって、日本のロック黎明期を裏で支えた1人だったんだ」
と知っていただければ、と思っています。
佐藤準さん、いつまでもお元気で。
おわり。