V.クォン:サウンド・アンド・スモーク
ヴィエット・クォンは1990年にベトナムで生まれた。アメリカのジョン・ホプキンス大学で作曲の修士課程を修了し、現在、同国プリンストン大学にて博士課程の履修中である。
吹奏楽曲の作曲はこの作品が3曲目で、前作の「ジクラット(Ziggurat)」で2010年にフレデリック・フェネル作曲賞を受賞し、この作品では2012年にウォルター・ビーラー作曲賞を受賞している。
曲名の「サウンド・アンド・スモーク」とは、ドイツの文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの代表作とされる長編の戯曲「ファウスト」の一節で、主人公ファウストとその恋人マルガレーテ(グレートヒェン)との会話の中での「感情が全てであり、言葉は単に音と煙に過ぎない(Feeling is all,Names are sound and smoke)」」と言う言葉が由来である。
2楽章からなるこの曲は、それぞれの楽章に「古城の光」「押し寄せる視線」と言うタイトルが付けられているが、楽曲のタイトルの意味より「言葉は感情ほど重要ではなく、曲を解釈する起点とし、題名に囚われて音楽の妨げにしてはいけない」と作曲者自身の書いたプログラムノートに記してある。
第1楽章「古城の光」は、大きな教会を模しており、様々な楽器の持つそれぞれの色彩感を組み合わせる事で「“くすぶり”の効果(“smoldering”effect)」を表現している。人間の持つ様々の感情の交錯による“くすぶり”が積もっていく様子を表現しているようにも思え、この楽章のクライマックスで積もり積もった感情が決壊し、溢れていく様子が描かれている様に感じる。
第2楽章「押し寄せる視線」は、金管のファンファーレで始まり、テンポの速いトッカータの形式を取っている。冒頭のファンファーレが形を変えながら様々な楽器に移り変わりながら進行し、曲は徐々に高揚感を増していき、クライマックスへと突入する。
この作品のコンセプトは、この全く異なる2つの楽章をまとめ、アイデア(メロディ)が現れては消えたり、異なる動きを持つ楽器同士で組み合わさってアイデアを提示したり、形を変えて後ろへ取り残したりしていく。作曲者は「すなわち、音楽は音と煙の様に素早く現れては消えていくのである」と綴り、プログラムノートを締めくくっている。
【出版:ヴィエット・クォン・ミュージック/グレード4.5/14:30】