鹿野草平:よみがえる大地への前奏曲
鹿野草平は1980年、神奈川県に生まれる。東京音楽大学で作曲を学び、これまでに有馬禮子、池辺晋一郎、甲田潤、西村朗、藤原豊、三木稔、水野修孝の各氏に師事している。クラシックをベースにジャズやロックを取り入れた作風で、変拍子を多用することも特徴としている。
この曲は日本のとある企業より委嘱を受けて作曲され、2011年11月29日に催された企業イベントにて、東北大学学友会吹奏楽部により初演された。ビデオ上映に付随する映像付帯音楽であるが、大まかなストーリー以外の細かな構成は作曲者に一任され、コンサートにも使用できるように書かれている。
クラリネット、ユーフォニアムの神秘的且つ物悲しい旋律で始まり、フルートなどによる変奏を経て、冒頭の再現部を迎える。冒頭の旋律(F,A♭,G,B♭)は、この曲全体の主題になっている。再現部の後、トランペット、トロンボーンのバンダが演奏する旋律が遠くから優しく聴こえ、それをアルト・サックスのソロなどが引き継ぎながら前半部の盛り上がりを迎える。
ティンパニソロで始まる速いテンポの音楽は、全奏での合いの手を交え、緊張感と不安感を高めながら進み、その後に現れるホルンによる希望に満ちた旋律との対比が明確になる。このホルンの旋律は、クラリネットを中心とした木管楽器、トランペットに引き継がれ、その後に現れるトランペット、トロンボーンによる勇敢な旋律を導く。
曲は、アイルランド民謡を感じさせる場面に入り、少し落ち着きを見せるが、次第にテンポが速くなり、再び不安を煽りながら盛り上がりを見せる。その余韻の残る中、憂いと喜びが交錯するかのようなオーボエソロが奏でられ、その旋律は次第に人数が増えていき、やがてバンダの高らかに鳴り響く希望に満ちたファンファーレとともに楽曲のクライマックスを迎える。
以下は作曲者のコメントである。
この楽曲は、東日本大震災の被害にあった全ての人々に捧げられており、とりわけ日本に住む人々が持つ復興への不屈の意志を描写している。
犠牲者への追悼と、復興への祈りを込め、歴史を譜面に刻む事が、この状況に際し音楽に携わる者としての私が出来る唯一の仕事だと思っている。
【出版:ブレーンミュージック(レンタル)/グレード5/演奏時間11:00】